東京地方裁判所 昭和36年(行)98号 判決 1972年8月31日
原告 玉野塩業組合
右代表者代表清算人 宮原虎之烝
同 梶原美矢男
右訴訟代理人弁護士 下山四郎
同 牧瀬義博
被告 日本専売公社
右代表者総裁 北島武雄
右指定代理人 陶山博生
<ほか七名>
主文
被告が原告に対し、昭和三五年一〇月一日付で塩業整理交付金の交付を決定した処分(ただし、日本専売公社総裁が昭和三六年三月二九日付で増額変更したもの)のうち、左記の部分に対する処分を取消す。
一 製塩施設の減価をうめるための交付金の算定に関し
1 汽缶設備の基準日の帳簿価額を調整し、調整額だけ交付金を交付しないとした処分
2 別表二の(二)記載の製塩施設のうち、別表二の(四)記載のものを除くその余のものについて交付金を交付しないとした処分
二 入川の浚渫費としての寄附金について交付金を交付しないとした処分
三 欠損をうめるための費用に対応する交付金の算定に関し、別表二の(一)記載の製塩施設のうち、別表二の(四)記載のものを除くその余のものの減価償却費を否認し、これについて交付金を交付しないとした処分
原告のその余の請求を棄却する。
訴訟費用はこれを二分し、その一を原告の、その余を被告の各負担とする。
事実
第一当事者の求める裁判
一 原告の申立
「被告が原告に対する塩業整理交付金の交付につき昭和三五年一〇月一日付をもってした決定(ただし、日本専売公社総裁が昭和三六年三月二九日付をもって二六八、三五五、二八二円と変更したもの)は、その決定額が三七、九七一、三三一円不足する限度において、これを取消す。訴訟費用は被告の負担とする。」との判決
二 被告の申立
「原告の請求を棄却する。訴訟費用は原告の負担とする。」
との判決
第二原告の主張
(請求の原因)
一 原告は、塩専売法六条一項の「塩またはかん水」の製造の許可を受けたものであるが、次表のとおり、その工場および塩田全部につき順次同法一二条一項の塩またはかん水の製造の廃止を申請し、その許可を受け、塩業整備臨時措置法(以下単に法というのはこれを指す。)二条に基づき被告の指定した期限(昭和三五年四月二五日)内にこれを廃止し、昭和三五年五月三〇日塩業組合法六四条に基づいて解散し、現に清算中の法人である。
そして、原告は、法二条、四条に基づき被告に対し昭和三四年一一月三〇日、同年一二月五日、昭和三五年一月二〇日、同年四月三〇日の四回にわたり、書面によって塩業整理交付金(以下単に交付金ともいう。)を請求したところ、被告は、昭和三五年一〇月一日付をもって右請求に対する交付金の総額を二六六、八八九、八四五円と決定し、同月一〇日原告にその旨通知した。
原告は、右決定額に不服があったので、同月三一日日本専売公社総裁に対し異議の申立てをしたところ、同総裁は、昭和三六年三月二九日その一部を認容し(原告の欠損をうめるための費用に相当する交付金として、一、四六五、四三七円を追加し、その結果、交付金総額は二六八、三五五、二八二円に変更された。)、その余を棄却する旨の決定をなし、同年四月三日原告にその旨通知した。
二 しかしながら、被告の決定(右公社総裁の決定による変更後のものを指す。以下同じ。)には左記のような違法があるから、請求の趣旨の限度においてその取消を求める。
製造場
廃止申請年月日
廃止許可年月日
廃止年月日
1
工場
昭和三四・九・一二
昭和三四・九・三〇
昭和三四・一〇・一二
2
新浜塩田
〃〃・〃・二八
〃〃・一〇・二一
〃〃・〃・二六
3
久々井塩田
〃〃・一〇・二二
〃〃一一・九
〃〃・一一・一三
4
前潟浜
亀浜
古浜
見能潟浜
塩田
〃三五・三・二五
〃三五・四・七
〃三五・四・九
(一) 製塩施設の減価をうめるための費用に対応する交付金(以下、減価補填交付金という。)に関するもの
1 汽缶設備について
被告は、原告の汽缶設備(ただし、昭和二八年五月に設置したタクマ式四トン水管ボイラーに昭和三一年二月水冷壁を附設したもの。以下、ボイラーの本体および水管を汽缶1、水冷壁を汽缶2という。)に対する減価補填交付金として、法三条、塩業整備臨時措置法施行令(以下、単に令というのはこれを指す。)四条により別表一のとおり合計三、三五六、八八六円の請求に対し合計一、九五三、六五七円と決定したが、右決定は、(1)汽缶1につき令四条四項にいう基準日以下、単に基準日という。原告の場合、右基準日は昭和三三年三月三一日である。)における帳簿価額(以下、基準日簿価という。)一、四三二、五二二円を九九四、〇五五円と調整した点および(2)汽缶1、2の処分見込価額をそれぞれ七二五、七二一円、四七四、一一四円と過大に認定した点に違法がある。
2 組合員から買収した製塩施設について
原告は、その組合員から買収した別表二の(一)記載の製塩施設(以下、買収施設ともいう。)につき、同表記載のとおり合計二一、四二九、二五〇円の減価補填交付金を請求したのに対し、被告は同表記載のとおり合計三〇九、八二六円と決定したが、右決定は買収施設の取得価額を過少に認定した違法がある。
もっとも、右買収施設に対する減価補填交付金は同表括弧内の数額が正確であるから、本訴においてはこの金額(合計二〇、八四八、一八六円)を主張するものである。
3、組合員が支出した塩田堤防施設の保存、改良費について
原告は、その組合員小橋米治から亀浜塩田の堤防施設を、同宮原虎之烝から久々井浜塩田の堤防施設をそれぞれ借入れて、前記廃止日の際塩またはかん水の製造の用に供していたが、右各堤防につき、右両名は昭和二六、七年に災害復旧費(亀浜堤防の場合)または改良工事費(久々井浜堤防の場合)を支出したので、これにつき別表三記載のとおり前者につき三二一、五四五円、後者につき一三九、二三六円の各減価補填交付金を請求したのに対し、被告は右決定においていずれもこれを否認し、(1)亀浜堤防についての災害復旧費は収益支出とすべきであるとし、(2)久々井浜堤防についての原告の利用関係は存在しないものとしたが、いずれも実情を無視した点に違法がある。
4 入川浚渫費について
原告は、昭和三〇年頃入川の浚渫に関して久々井部落に寄附した一〇〇、〇〇〇円を仕訳上設備費として計上し、右浚渫費につき、令四条四項一号に基づく所定の計算をしたうえ、七三、七九五円の減価補填交付金を請求したのに対し、被告は右決定においてこれを否認したが、右決定は右寄附金の実質を無視した違法がある。
(二) 退職金を支払うための費用に対応する交付金(以下、退職金支払交付金という。)に関するもの
原告は、その従業員檜垣浅一に対する退職金につき、令五条に基づき別表四記載のとおり勤続月数を二〇四・三か月として四三六、四〇三円の退職金支払交付金を請求したのに対し、被告は同表記載のとおり勤続月数を七四・五か月として一五九、一三八円と決定したが、右決定は同人の勤続月数を不当に短期に認定した違法がある。
(三) 塩田を他の用途に転用するものとした場合に必要とされる費用に対応する交付金(以下、塩田転用交付金という。)に関するもの
被告は、原告の塩田転用交付金として令六条により原告の塩田実測面積に基づき、六〇、五八一、六二五円と決定したが、右決定は交付金算定の基礎となる塩田の面積にいわゆる釜屋敷上にあるかん水溜等の附属施設の敷地の面積(合計八、六七九、六四七・六平方メートル。これに対応する交付金の額は七五二、五二五円)を含めていない違法がある。
(四) 清算のための費用に対応する交付金(以下、清算費用交付金という。)に関するもの
被告は、原告の清算費用につき原告がした右表記載の清算費用交付金請求に対し、同表記載のとおり決定したが、右決定は清算事務従事者に対する給与および施設の保全管理費を過少に認定した違法がある。
費用 原告請求額(円) 被告決定額(円)
清算人報酬 六三〇、〇〇〇 六三〇、〇〇〇
清算事務従事者給与 一、九三八、〇〇〇(一、八〇〇、〇〇〇) 一、二六〇、〇〇〇
清算事務費 三八〇、〇〇〇 三八〇、〇〇〇
施設の保全管理費 三、六〇〇、〇〇〇(二、二五六、一三七) 二六〇、九一七
その他特に必要な費用 二〇〇、〇〇〇(〇) 〇
合計 六、七四八、〇〇〇(五、〇六六、一三七) 二、五三〇、九一七
もっとも、同表中原告請求額は左側に括弧内の数額の記載があるものはそれが正確であるから、本訴においてはこの金額を主張する。
(五) 欠損をうめるための費用に対応する交付金(以下、欠損補填交付金という。)に関するもの
被告は、原告が欠損補填交付金として法定限度額(基準日欠損額)たる三八、〇一九、一九六円を請求したのに対し、別表五記載のとおり、その金額を二六、〇八九、〇四〇円と決定(ただし、日本専売公社総裁に対する異議申立てにより当初決定額二四、六二三、六〇三円に一、四六五、四三九円を追加したもの)したが、右決定のうち、左記記載の損金に相当する金額を否認した点は違法である。
1 塩田賃借料支払による損金
原告が昭和三四、三五年度中にその組合員に対し支払った塩田賃借料(昭和三四年度分一一、二八〇、三五一円、昭和三五年度分一九六、六三三円)のうち一、六三〇、四八二円
2 損金分担金返戻による損金
原告がその昭和三二年度の決算において未収入金として計上したその組合員に対する損失分担金を昭和三四年度の仮決算において営業外費用の名目をもって損金処理したことによる六、五六七、三八二円
3 施設除却費等の損金
原告が昭和三四年三月末日資産に計上し、同年一〇月一二日および昭和三五年三月三一日に除却した別表六の(一)および(二)記載の各施設(以下、除却施設ともいう。)の除却損九、〇四七、五八三円、昭和三四年三月末日資産に計上し、同年一〇月一二日に経費処分した別表六の(三)記載の採かん器具(以下、除却器具ともいう。)七一七、二四七円および前記(第二の二(一)2)買収施設(原告がその組合員から買収した別表二の(一)記載の製塩施設)に対する減価償却費三、七二四、六八四円(その内訳は昭和三四年四月一日から工場廃止日の同年一〇月一二日までの償却額二、七八八、四四二円に右工場廃止日以降全塩田廃止日の昭和三五年四月九日までの減価償却額一、一五八、一二一円のうち被告認容の二二一、八七九円を差引いた九三六、二四二円を合算したものである。別表六の四参照。)の合計一三、四八九、五一四円
4 利息の支払による損金
原告が工場および新浜、久々井浜両塩田の施設のためならびにそれらの運転資金のためとの名目による借入金に対する利息として、右工場および両塩田の廃止後、前潟浜、亀浜、古浜、見能潟浜塩田(以下、前潟浜等塩田という。)の廃止までに支払った三、〇二九、四二六円
5 退職金の支払による損金
原告がその従業員に対し支払った退職金のうち法三条、令五条による退職金支払交付金を超える部分たる四、七九九、九八四円
第三被告の主張
(請求原因に対する答弁)
原告主張の請求原因一の事実は認める。同二は被告が原告の交付金請求に対し原告主張の内容の処分をしたことは認めるが、右処分に原告主張の違法が存するとの主張は争う。
(被告の処分の適法性)
一 総論
(一) 塩業整備臨時措置法および同法施行令等の制定経緯
被告は、昭和二五年の閣議決定に基づき、塩(食料用塩)の増産政策をすすめ、製塩施設ならびに製塩技術の合理化を強力に指導、育成し、殊に従来行なわれていた平釜式煎ごう方式を集約煎ごう方式に、また、入浜式塩田採かん方式を流下式塩田採かん方式にそれぞれ転換させた。その結果、塩の生産量は従来の一ヘクタール当り八〇トンないし一〇〇トン程度から一躍二五〇トン程度に達し、全国総生産量としては、昭和二五年以降昭和二九年までは年間せいぜい四五万トンにすぎなかったのに対し昭和三三年には一〇八万トンに増加し、昭和三四年には一四〇万トンが見込まれるに至った。ところが、これに対する需要の伸びは、人口増に伴なうものはあっても顕著ではなく、このままの状態では大幅な生産過剰となることは明らかであり、被告は生産過剰であっても一定の収納価格をもって生産された塩の収納を義務づけられているため、逐年在庫が増加し、塩事業会計は赤字が累積するところとなり、昭和三三年度には一五億八、〇〇〇万円の赤字を見るに至った。
当時、わが国における塩の総需要は、食料用および工業用を併せて三〇〇万トンもありながら、右のような生産過剰となることは、直接的には国内塩が製塩上諸外国に比して余りにも不利な自然的条件のため、コストの低減を図りえず、輸入塩に比し遙かに高値であった(昭和三四年当時、一トン当り、輸入塩は運賃込みで約三、一三〇円であったのに対し、国内塩は一二、〇〇〇円であった。)ことが原因であるが、根本的には塩業審議会の答申にあるように、塩について「長い間の専売制度になれて、関係者のすべてが市場について極めて安易な考え方しか持たず、そのため技術の進歩を活かすべき経営の合理化が阻まれ、あるいは経済性についての慎重な配慮を怠って、量的な増産の効果にのみ目をうばわれた」結果によるものといわなければならない。
被告は、かような事態を解決するため塩業審議会にその対策を諮問したところ、昭和三四年一月同審議会から、製塩設備の整理については、各「企業の自主的な判断に基づいて行なうことを原則とし」、一定期間内に「整理に応ずるものに限り、公社は合理的な補償措置を講ずべきで」あって「(イ)設備については、妥当な資本投下額で、整理により回収できないと認められる額を補償する。(ロ)塩田土地については、これを他の用途に転用するものとして、その一部に相当する額を補償する。(ハ)塩田製塩業者の営業補償として、整理時の収納価格による推定所得の一定期間分を補償する。(ニ)従業員の退職金として、社会通念に従い適正と認められる額を補償する。(ホ)清算のため特別の費用を要すると認められる場合においては、その一部に相当する額を補償する。」旨の項目を含む答申をえたので、これに基づいて立法、予算の各立案作業に従事し、その結果、昭和三四年三月二四日塩業整備臨時措置法の制定公布をみ、これに伴ない同法施行令を含む関係法令および公示が制定され、また関係通達が発せられた。
そして右答申が自主的廃止業者に対し合理的補償をすべきであるとした点については、法二条に「塩業整理交付金」を交付するとして明定されたが、右答申が示した具体的補償の内容については、以下のように成文化された。
(1) 答申中(イ)の未回収投下資本の回収については、法三条一項で「製造の廃止の際に当該製造の用に供されている製塩施設の当該廃止による減価をうめるための費用」および「その他政令で定める事項」すなわち「廃止に係る塩又はかん水の製造事業についての欠損(繰越欠損を含む。以下同じ。)をうめるための費用(令三条三号)」の二項目に分けて規定され、前者に関する算定基準等については令四条、日本専売公社公示(昭和三四年五月九日公示第五号。以下公示というのはこれを指す。)二条、三条、四条、昭和三四年六月一〇日付臨整(一)第二四号臨時塩業整備本部長通達(以下臨整二四号通達というのはこれを指す。)別紙Ⅰ、同日付臨整(一)第二五号同本部長通達(以下臨整二五号通達というのはこれを指す。)に、後者については、令七条一項三号、公示一三条、臨整二四号通達別紙Ⅵにそれぞれ規定された。
(2) 答申中(ロ)の塩田転用費用については、法三条一項で「当該廃止の際に当該製造の用に供されている塩田を他の用途に転用するものとした場合に必要とされる費用」であると規定され、これに関する算定基準等については令六条、臨整二四号通達別紙Ⅲに規定された。
(3) 答申中(ハ)の推定所得については、法三条一項でこれを「その他政令で定める事項」とされ、令三条一号で「三年間の推定所得」であると規定されて、その範囲が詳細に規定されたほか、これに関する算定基準等については、令七条一項一号、同条二項、公示一条、九条、一〇条、一四条および臨整二四号通達別紙Ⅳに規定された。
(4) 答申中(ニ)の退職金については、法三条一項で「当該廃止に伴って必要とされる退職金を支払うための費用」であると規定され、これに関する算定基準等については令五条、公示五条、六条、七条、八条および臨整二四号通達別紙Ⅱに規定された。
(5) 答申中(ホ)の清算費用については、法三条一項でこれを「その他政令で定める事項」とされ、令三条二号で「法人である廃止業者でその製造の廃止に伴って解散するものについては、その清算のための費用」であると規定され、これに関する算定基準等については、令七条一項二号、公示一二条、臨整二四号通達別紙Ⅴに規定された。
(二) 交付金の性格
法の定める交付金は、企業の自主的判断に基づいて一定期間内に塩またはかん水の製造を廃止した者に対して交付される一種の補助金であるから、廃止業者のこれを受ける権利は法によって発生する権利であって、憲法二九条にいう「正当な補償」を請求する権利ではない。けだし、自己の意思に基づき塩専売法一二条により被告の許可をえて塩またはかん水の製造を廃止しようとする業者は、本来いかなる名目においても被告から金銭の交付を受ける筋合がないことに徴すれば、法が一定の期間内にその廃止を申請した者に対し一定の交付金を交付することにしたのは、ひとえに右製造業の自主的廃止を奨励する政策的考慮から出たものと解するほかないからである。したがって、右趣旨の交付金をいかなる程度交付するかは立法政策上の問題であって、憲法二九条とは全く関係のないものである。
二 各論
(一) 減価補填交付金に関するもの
1 汽缶設備について
(1) 汽缶1の基準日簿価の調整の点について
被告が、汽缶1に令四条を適用するにあたり、汽缶1の原告の基準日簿価一、四三二、五二二円を九九四、〇五五円に調整したのは左記理由による。すなわち、
原告は、もともと耐用年数の異なる汽缶本体と水管とを帳簿上一体として取扱い、両者の取得価額を併せて全体の取得価額とし、一定の年数(本件においては一五年)を全体の耐用年数(総合耐用年数)として、定率法により減価償却する方法(いわゆる総合償却法)をとっていたものであって、汽缶1の帳簿上の取得価額三、〇三八、九〇〇円には、昭和三三年三月中、その基準日前においてすでに新水管(別表一の(ロ))と取りかえられて除却された旧水管(上昇管)の取得価額も含まれていた。しかし、右旧水管が法三条にいう「製造の廃止の際に当該製造の用に供されている製塩施設」に該当しないことは明らかであり、他方、被告は、取りかえられた新水管につき、これを資本投下と認めて別個に交付金の対象としたから、右旧水管を交付金の対象とするのは不合理であり、汽缶1の原告の基準日簿価のうち右旧水管に対応する部分は、令四条四項を適用するにあたって除外すべきであるから、被告は後記計算方法により算出した旧水管部分の基準日簿価相当額四三八、四六七円を汽缶1の原告の基準日簿価一、四三二、五二二円から控除して、その調整をしたのである。
旧水管部分の基準日簿価の算定については、汽缶1の取得価額三、〇三八、九〇〇円のうち、旧水管部分の取得価額が不明であったので、昭和三三年三月に行なわれた新水管取替工事の直接費一、〇七〇、一七二円を昭和二八年から昭和三三年までの物価倍率(昭和三四年七月三日付臨整(一)第四八号臨時塩業整備本部長通達(以下臨整四八号通達というのはこれを指す。)別紙Ⅱの物価倍率表による。)により逆算して修正した九三〇、一四九円(1,070,172円×0.93/1.07=930,149円)を旧水管の取得価額と認定し、これが汽缶1全体の償却割合と同一の割合で償却されたものとして、次式により算出した。
930,149円(旧水管取得価額)×1,432,522円(汽缶1の基準日簿価)/3,038,900円(汽缶1の取得価額)=438,467円(旧水管の基準日簿価)
(右の点に関する原告の反論について)
総合償却法をとる場合、除却損益を計上しないのが企業会計上通常の処理方法であるとの原告の主張は争う。
原告主張の連絡意見書は、原告引用部分に続き、「現行のように、個々の資産について償却額をあん分して割り当て除却時に除却損益を計上するのでは、個別償却法と異なるところなく」として、現行方法の改正が望ましいという意見を述べているのであって、当時、按分して割当て除却損益を計上する方法が一般に行なわれていたことを証明している。
また、塩業整備の基本的な考え方として、塩業審議会が妥当な投下資本の回収を答申したことは事実であるが、これを受けて制定された法、令ではかならずしも投下資本のすべてを回収させる仕組みにはなっておらず、そこでは交付金算定の対象を廃止日に現存する施設に限っている以上、投下資本が結果的に回収されえないことがあってもやむをえないのである。
また、水管の通常の耐用年数が三、四年であるとの原告の主張は否認する。その耐用年数は約一〇年である。したがってまた、本件の旧水管が実質上償却ずみであったとの原告の主張も認めることはできない。
なお、原告引用の法人税法基本通達の趣旨が原告主張のとおりであることは認めるが、同通達が昭和三九年三月の改正において「当該総合償却資産に係る総合耐用年数をもって平均的に個々の資産に係る償却額の配賦をすることは、適正な配賦方法に該当しないのであるから留意する」との注書を設け、あらためて平均的配賦計算の妥当性を否定したのは、当時、平均的配賦方法が一般的に行なわれていたことを物語るものである。
(2) 汽缶1、2の処分見込価額の認定の点について
被告は汽缶1、2に対する交付金を算定するにつき法三条、令四条を適用したが、令四条一項によれば、製塩施設の減価をうめるための費用に対応する部分の交付金は、製造廃止日における各製塩施設の価額の合計額から、その処分見込価額の合計額を控除した額とすることになっているので、右汽缶設備を臨整二五号通達別紙第8の2にいう「機械および装置」とみ、かつ、その経過年数(税法上汽缶設備の耐用年数は二〇年であるが、右汽缶設備は汽缶1でさえ六年半しかたっていなかった。)、損耗度等を考慮して、屑(スクラップ)としてではなく、中古品として処分する場合にあたるものと認め、右通達別紙第8の2(2)イによって、その処分見積額を算出するとともに、法五条一、二項、右通達別紙第5の1に従い、別途に浅沼龍雄および原田重一の二人の鑑定人にその評価をさせ、その鑑定価額(汽缶1については、六四六、一六二円および八〇五、二八〇円、汽缶2については、四二二、一四八円および五二六、〇八〇円)の平均値(汽缶1は七二五、七二一円、汽缶2は四七四、一一四円。同通達別紙第5の2参照)が被告算出の見積額(汽缶1は八〇七、七〇三円、汽缶2は五二七、六八五円)と三〇パーセント未満の相違であったので、同通達別紙第6の1により、右鑑定価額の平均額をその処分見込価額として採用したのであって、右価額はもとより正当である(もっとも、被告は各鑑定人に対し、右汽缶設備を中古品または屑のいずれかと指定して鑑定させたものではない。)。
なお、右汽缶設備は、その後、現に中古品として処分されているから、その処分見込価額の算出にあたり、屑としてではなく、中古品として処分する場合にあたると認めたことに違法はないというべきである。
(右の点に関する原告の反論について)
右汽缶設備をのまま貨車で輸送することは不可能であり、それを解体するには水管を切断せざるをえないことは原告主張のとおりであるが、右汽缶設備を船で輸送することは可能であった。また、その余の点についての原告の主張は不知。
2 買収施設について
本件買収施設が、原告の会計帳簿上昭和三四年三月末日取得したものとして処理され、また、原告の役員が作成し総会の承認を経て監督官庁(被告)、税務当局、関係金融機関等に公表した決算書類ならびに本件交付金請求書にも同様に記載されていたので、被告は、これに対する減価補填交付金を算定するについては、基準日後に取得されたものと認めて令四条四項二号を適用したが、右買収施設は、すべて従前原告が現実に使用していたものを塩業関係者たる組合員から取得したものであるので、交付金の算定の前提となる取得価額については、右規定にいう「取得価額が通常の価額を著しくこえている」か否かの認定基準を定めた臨整二四号通達別紙Ⅰ6(1)③の「基準日以降に取得した固定資産で塩業関係者から取得したものは、処分見込価額と取得の日から廃止の日までの賃借料相当額の合計額をこえる金額は認めない。」との基準に従うこととなるが、原告にはその取得以前における賃借料支払の実績がなかったので、結局、右買収施設に対する減価、補填交付金の算定の前提となる取得価額としては、処分見込価額をこえる金額を認めることができないから、右買収施設に対する減価補填交付金の額は零となる(令四条一項参照)のであって、被告のした決定に違法はない。
もっとも、右買収施設のうちには被告が交付金を認めたものもあるが、それは、その施設が原告の購入前の所有者であった宇野港土地株式会社の帳簿に正規の簿記の原則により資産としての帳簿価額が計上されており、同会社が製塩廃止業者となった場合には、当然同会社に対する交付金の対象と認めることができるものであったので、未回収投下資本の回収の主旨にそって右通達の例外的措置として交付金の交付を認めたものである(昭和三四年一二月三日付臨整(一)第二五四号の二臨時塩業整備本部長通達参照)。
なお、右臨整二四号通達の根拠は次のとおりである。すなわち、令四条四項が施設の取得につき基準日なるものを設け、その前か後かによって交付金の算定方法を区別したのは、今回の塩業整備の構想が昭和三三年末頃には業界にも広く知れ渡ったところから、交付金を有利に取得するため仮装経理が行なわれることが懸念されたので、これを防止するための措置であった。そこで、被告は、基準日前に取得された施設については、原則として各企業の取扱いの自主性を認め、その帳簿価額を基礎として交付金を算定して妨げないが、基準日後廃止日までの間に取得された施設について交付金を算定するには、当該施設が真に製塩の用に供されたかどうか、企業において取得の必要があったかどうか。また、取得価額が妥当であったかどうか等を慎重に調査、検討する必要があることに鑑み、同通達別紙Ⅰ6をもって、その取得価額の妥当性につき特別の認定基準を定めたのである。そして、その(1)③の基準のいわれを説明すると、本件のように組合がその構成員たる組合員からその所有する施設を取得した場合には、それはいわば自己取引のようなものであり、交付金を有利に取得するためにどのように不当な会計処理をすることも可能であるから、これを防止する必要があること、すなわち、例えば、その施設が施設としての使用価値があるものであっても、当該組合員に関するかぎり、投下資本として既に回収ずみのものもありうるのであって、このような施設は組合員所有のままでは塩業廃止による減価補填交付金が零または極めて少額なものであるにもかかわらず、それを組合が買収した形式を整えることによって、その取得価額を基準として交付金が算定されるというのでは、前示法、令の趣旨に反することになることから、右通達は、かような取得価額の妥当性の限界を当該施設が当該廃止業者に与える現実の効用におき、その具体的判定方法として、取得日から廃止日までの賃借料相当額とその処分見込価額との合計額を最高限度としたものである。
(右の点に関する原告の反論について)
原告主張の事実中、原告が昭和二八年中に塩の煎ごう工場を新設して以来、その組合員において各自被告の許可を受け自己の企業として自己の塩田で製造したかん水を買入れて煎ごうしてきたこと、被告が昭和二八、九年頃従来の入浜式塩田を流下式塩田に転換させる方針をたて、そのため昭和三〇年初め頃右転換工事およびこれに要する資金の借入、償還ならびに転換後の塩田の経営等をすべて塩業組合において行なうように指導し、これによって従前採かんと煎ごうとを組合員と塩業組合とがそれぞれ分担していたのをすべて塩業組合が行なうようになったことは認める。
原告は、買収施設の取得が基準日前であったことを組合経営の一本化と結びつけて論証しようとするが、組合経営の一本化の内容は次のようなものであって、買収施設の所有権の移転とは直接関係がない。すなわち、組合経営の一本化とは、入浜式塩田を流下式塩田に転換することにより設備配置および作業管理の大規模化を招来し、これに伴い投資額が個人の負担能力をこえる莫大なものとなるため、塩業組合が設備を所有し、かつ、従業員を雇傭して、かん水を製造する経営形態をとることをいったものであって、この場合、塩業組合が流下盤、枝条架等を設置するため塩田土地自体を所有した方が便利ではあるが、塩田土地を所有しなければ一本化経営ができないというものではなく、事実、塩田の土地まで塩業組合の所有とされた例は極めて少ないのである。換言すれば、組合経営の一本化は、生産技術の変革に伴なって必然的に要請された生産構造の変革ではあるが、あくまで所有の一本化でなく、経営についての一本化であったのである。
また、原告は前記臨整二四号通達別紙Ⅰ6(1)③が令四条四項二号の規定に違反すると主張するが、右通達は前記のとおりの根拠に基づくものであるから、右令の規定に違反するものではない。
また、原告は前記通達別紙の条項にいう「賃借料相当額」をもって客観的に正当と認められる賃借料相当額を指すと主張するが、右通達は前記のように製塩廃止業者が当該施設の取得によって与えられた現実の効用を、その取得価額の妥当性の限界とみるものであるから、右にいう「賃借料相当額」は右業者の従前の実績によるべきものである。したがって、従前無償で使用していたものについては、製塩業の廃止が予定されているのに、これを購入しても賃料支払を免れるという効用はないから、その適正な取得価額は処分見込価額以上ではありえないのである。
次に、仮に、原告主張のように、買収施設を基準日前に取得し基準日後に記帳されたものとしても、それは「基準日前に取得された製塩施設」にあたるから、令四条四項一号の適用があることとなるが、基準日の帳簿価額は零であるから、同号の規定に基づく計算によると交付金は零となる(なお、同項二号は「基準日後廃止日までの間に取得された製塩施設」についての規定であるから、右の場合の適用条項でないことは明らかである。)。
また、原告は買収施設を基準日前に取得したことを前提として、令四条五項により交付金を算定すべきであると主張するが、令四条五項にいう「帳簿価額の判明しない場合」とは、臨整二四号通達別紙Ⅰ7①に記載のとおり「正規の簿記の原則により記載されている帳簿のない場合をいう」のであって、帳簿がありながらこれに記載されていないようないわゆる簿外資産が存する場合を含むものではない。つまり、減価補填費用は、欠損補填費用とともに交付金算定の事由として廃止業者のいわゆる未回収投下資本額の回収を図るものであって、流動資産(塩業の場合極めて少ない。)は簿価による処分が可能であるから、これを交付金の対象とする必要がなく、固定資産および欠損だけを交付金算定の対象としても、未回収投下資本の回収は可能となるのであるが、明治四三、四四年および昭和四、五年に行なわれた各塩業整理においては、当時の製塩業が個人企業として投資、収入、支出等を明記した帳簿を持たなかったため、現存する施設、器具の塩業廃止による処分損失額を補填するに止ったのに対し、近時の製塩業は製塩設備が高度化、大規模化、集中化するに従って、これに対する投下資本の額が著しく増大し、その多くは外部に対する負債となり、一方また、経営構造も変化して殆んど法人企業として正規の帳簿を有し、これによって投資額のうち、未回収部分の金額を明確にしているところから、昭和三四年の企業整備においては塩業廃止による社会的混乱を防止するため、前記方法による未回収投下資本の回収を図ることが望まれたわけで、これに応じて法および令は、交付金算定にあたっては、正規の簿記の原則に従って作成されている帳簿の存在を前提として、未回収投下資本の回収を図ったのである(簿価主義または帳簿主義というのは、このことを指す。)。そして、簿外資産は、一応、これに対する投資がなかったか、または既に回収ずみであるかのいずれかであったため企業の帳簿にその価額を計上する必要がなかったものとして、交付金の算定上無視することとされている(右通達別紙Ⅰ7②参照)が、廃止業者のうちには、なお旧来のように帳簿を有しない個人企業が存在していたので、令四条五項はこれを救済する方法として、帳簿を有しない場合を規定したのである(なお、簿外資産とは、物理的には存在するが、企業の帳簿に記載されていない資産をいい、例えば、(イ)かつては帳簿に記載されていたが、償却が終ったため帳簿から落された場合、(ロ)贈与その他の理由で無償で受入れたため帳簿に記載しなかった場合などが考えられるが、右(イ)の場合はこれに対する投資額が既に回収ずみであり、また、右(ロ)の場合はこれに対する投資自体がなく、いずれにしても企業の資本や負債によって調達されているものではないから、回収すべき資本投下の額としては零であり、令四条四項にいう基準日の帳簿価額としても明らかに零である。)。
3 塩田堤防施設の保存、改良費について
(1) 亀浜堤防についての災害復旧費について
被告が、本件処分において、原告の組合員小橋米治が昭和二六、七年に亀浜塩田堤防についてした災害復旧工事に要した費用を資本支出と認めず、収益支出と認めたのは、左記理由による。すなわち、
固定資産に対する工事費等の支出が資本支出であるか、収益支出であるか決める基準については、学説上論議があるが、被告は法、令が廃止業者に帳簿がある場合にはこれに基づき交付金を算定する建前をとっているので、当該支出について正規の帳簿処理がなされ、資本支出として会計処理がなされていれば、それをそのまま認めた筈である。しかるに、亀浜塩田堤防についての右復旧工事費については、正規の帳簿処理がなされていなかったので、臨整二四号通達別紙Ⅰ6(4)を適用して右支出の区分を判定することとなるが、右通達は法人税法施行規則(昭和四〇年政令第九七号による改正前の昭和二二年勅令第一一一号のもの。以下旧法人税法施行規則という。)一〇条の二の基準を採用し、耐用年数を延長させるもの、もしくは価額を増加させるもののみを資本支出と認めることにしているので、これによると右復旧工事はその要件にあたらないと認められるから、その費用を収益支出と判定したのである。
(右の点に関する原告の反論について)
原告は塩生産費調査手続(日本専売公社総裁通達)を根拠として右復旧工事費が資本支出であると主張するが、右調査手続における非原価項目に関する取扱は、一般の会計慣行が軽微な修繕費(例えば、台風により破損したガラスの修繕費)を原価外とはしていないのが実情であるので、かような費用の支出についての基準を定め、例えば、一件三〇、〇〇〇円以下の風水害等による異常損失を原価に算入することを是認したものであって、原告主張のように原価外費用は資本支出であるとしたものではない。原価に算入されない費用または損失が即資本支出であるという議論は、例えば、政治献金が原価に算入されないからといって資本支出になるという主張と同一であって、一般に公正妥当な会計原則とはいえないものである。
(2) 久々井浜塩田堤防についての改良費について
原告の組合員宮原虎之烝が昭和二七年に久々井浜塩田堤防について改良工事をしたが、原告は右堤防を宮原から借入れて廃止の際製造の用に供していたものではなかったので、右改良工事に要した費用を減価補填交付金の対象と認めなかったのである。
4 入川浚渫費について
被告が本件処分において、原告のいう入川浚渫費の減価補填交付金を否認したのは、原告が昭和三〇年頃久々井部落に対してした一〇〇、〇〇〇円の寄附は収益支出であり、これを資本支出と解することができないので、減価補填交付金の対象とならないと判定したことによるものである。
(右の点に関する原告の反論について)
原告主張の事実中、原告が右寄附金を仕訳上設備費として計上したこと、その廃止日現在の償却残高が七三、七九五円であったことは認めるが、その余の事実は不知。
なお、原告は右寄附金が収益支出であるなら、これに対し欠損補填交付金を認めるべきであると主張するが、欠損をうめるための交付金は帳簿上欠損として計上されたものについてのみ認められるものであって、そのような帳簿処理がなされていない右寄附金についてこれを認めることはできない。
(二) 退職金支払交付金に関するもの(勤続月数の認定について)
被告が檜垣浅一に対する退職金支払交付金の算定にあたり、令五条にいう勤続月数を七四・五か月と認定したのは、同人が原告に雇傭されていた期間が昭和二九年一月二六日から廃止日までであったからである。
(右の点に関する原告の反論について)
原告主張の事実中、檜垣浅一が原告に雇傭されるに至った経緯は不知。
原告は檜垣浅一の波止浜塩業組合における勤務期間を公示六条により原告における勤続期間に通算すべきであると主張するが、公示六条は、流下式塩田への転換にあたり、従来個々の組合員に雇傭されていた労務者が当該組合員の組織する塩業組合に引継がれた場合等に関するものであって、檜垣浅一のように特定の塩業組合から別の塩業組合に転属した場合には適用されるものではない。
(三) 塩田転用交付金に関するもの(塩田面積の認定について)
被告が原告に対する塩田転用交付金算定の基礎となる塩田の面積にいわゆる釜屋敷上にあるかん水溜等の附属施設の敷地の面積を加えなかったのは、左記理由による。すなわち、
塩田転用交付金は、推定所得にあてる交付金(令三条一項)とあいまって、塩田製塩業者に製塩業廃止後の生活の基盤を与えるために、交付されるものである。そして、右に関する令六条一項は、塩田を農地に転用することを予想して、その費用を一ヘクタール当り一、三〇〇、〇〇〇円とし、その三分の二の八六七、〇〇〇円を交付することとしたものであるが、その対象たるべき塩田の範囲は塩田製塩業者の生活の基盤になっていた部分に限られるべきであるから、当時、その実態に合わなくなっていた塩田許可面積によることは適当でなかったので、令六条二項においてその範囲をかん水採取の目的でさん砂されている土地に限ることとしたのである。しかしながら、流下式塩田については、入浜式当時塩田とされていたところにかん水溜等の諸施設が設けられるに至っていたので、令六条二項はかような附属施設の敷地も右塩田の範囲に含まれるものと規定したのである。ただ、この場合、堤防、玉土手が除外されているが、それは塩田の農地転用に要する費用としては盛土の費用が主となるものと考えられるところ、堤防、玉土手は盛土の必要がないことによるものである。
ところで、原告のいう釜屋敷は盛土の必要のないものであるから、堤防と認めるべきであり、右令の趣旨を受けて定められた臨整二四号通達別紙Ⅲ2①により、その上にあるかん水溜等の附属施設の敷地は交付金算定の対象とならないから、これを原告に対する塩田転用交付金算定の基礎たる塩田の面積に加えなかったのである。
なお、塩田の堤防とは塩田内に存在する採かん施設を災害から防止する施設を指称する(製塩施設法二条)が、右釜屋敷はその点からも堤防の一部と認めるべきものである。
(右の点に関する原告の反論について)
原告主張の事実中、原告のいう釜屋敷が原告主張の構造であり、その土地台帳上の地目が塩田と記載されていること、かん水溜が農地転用に盛土を必要とすること、釜屋敷上の施設に対する災害復旧等の補助金率が堤防に対する補助金率によっていなかったことは認める。しかし、右地目の表示は本件処分の根拠となんら関係のないものであり、また、法、令はかん水溜まで右転用交付金の対象として予定しているものではない。そして、右補助金率の取扱いは釜屋敷上の当該施設を堤防ではないと認めたことによるのであって、釜屋敷自体を堤防でないと認めたことによるものではない。
(四) 清算費用交付金に関するもの
塩業整理交付金の交付につき、法二条一項は、昭和三四年四月一日から昭和三五年三月三一日までの間に塩専売法一二条一項(その製造場における製造の廃止)の許可を申請した同項の製造者で、当該許可を受けて公社の指定する日までに塩またはかん水の製造を廃止したものを廃止業者とし、これに塩業整理交付金を交付することとしているから、同法にいう廃止業者は廃止を申請した製造所ごとに成立し、その廃止業者ごとに塩業整理交付金が交付されるのが建前である。したがって、同一の経営主体が、例えば、一部の製造場について製造を廃止すれば、残余の製造場で製造を継続していても、その廃止した製造場の廃止業者として交付金が交付され、また、例えば、複数の製造場につき各別に製造を廃止すれば、その各製造場ごとに廃止業者として交付金が交付されるのである。そして、その交付金の額の算定については、法三条一項において「その交付を受けるべき廃止業者につき」交付金を算定することとしているから、清算費用の算定についても、同様に解すべきこととなるが、令三条二号は清算費用について法人である廃止業者でその製造の廃止に伴って解散するものについて算定することとしているので、すべての製造場を廃止した廃止業者であっても、解散しない限り、清算費用交付金の交付を受けることはできず、これに反し、例えば、かん水溜の製造を廃止し、煎ごうのみを行なう場合等において、その経営主体であった既存の法人を解散したときは、残存事業のためあらたに法人が組織されても、一部の事業廃止によって解散した廃止業者は、清算費用交付金の交付を受けることができるのである。しかも、塩業整理交付金は前示のとおり廃止業者ごとに算定すべきものであるから、清算費用の算定については、各廃止業者につき、その製造の廃止に伴って解散するものであるかどうかを認定したうえでこれをなすべきこととなるのである。
ところで、原告の場合、四回にわたり製造場を廃止しているから、それぞれの廃止について清算費用交付金を算定することとなるが、被告は先行した三個(工場、新浜塩田、久々井浜塩田)の廃止には解散が伴わず、最後になされた前潟浜等塩田の廃止に解散が伴ったものと認定し、令七条一項二号に定める清算費用交付金の限度額を前潟浜等塩田の廃止による塩業整理交付金(但し、清算費用交付金を除く。)一三〇、二七〇、七二三円の二パーセントたる二、六〇五、四一四円とした。
そして、被告は右令七条一項二号に基づき、清算のため特に必要とされる費用についての基準を定めた公示一二条およびその運用を定めた臨整二四号通達別紙Ⅴ2によって原告の請求額を検討したところ、
1 清算人の報酬は、原告の製造許可高が一万トン以上であるから、その請求額六三〇、〇〇〇円を認容し、
2 清算事務従事者給与は、右1の二〇〇パーセントが限度額であるから、原告の請求額のうち、その限度額たる一、二六〇、〇〇〇円とし、
3 清算事務費は、原告の請求額三八〇、〇〇〇円が右1および2の合計額の八〇パーセント以内であるからその請求額を認容し、
4 施設の保全管理費は、前示のとおり前潟浜等塩田の施設の減価補填交付金を基準に算定すべきであり、これによるとその〇・五パーセントたる二六〇、九一七円が限度額であるから、原告の請求額のうち、その限度額のみを認めたのである。
(五) 欠損補填交付金に関するもの
欠損補填交付金は、減価補填交付金とともに塩業に対する妥当な投下資本で整理によって回収できないと認められる額を補填する趣旨のものであって、その交付金を受けるべきものは昭和三四年中に廃止申請を行なった廃止業者(いわゆる自主的に廃止を申出た者)に限られ(法二条一項)、法二条二項の規定に基づいて廃止した特例廃止業者および法六条の規定に基づいて許可の取消を受けた者はその交付金を受けることができないとされている(令三条三号、同一一条)。
塩業整備にあたり、かような本来企業の経営責任に帰すべき欠損額まで国費をもって補填しようとした所以は当時、前示のような理由で国内塩が生産過剰となり、塩事業会計の赤字が累積するにつれ、それだけ国の負担が増加する状況にあったので、その過剰生産力をできるだけ早期に除去し、国費の負担を軽減する施策が望まれていたが、右施策を早急かつ円滑に実施するには、塩業を自主的に廃止し右施策に積極的に協力する製塩業者に対しては特別の計らいをするにこしたことはないと考えたからであって、欠損補填交付金を交付するとする措置は過去に行なわれた塩業整理にはみられない異例のものである。
したがって、欠損補填交付金の算定にあたっては、当該欠損が通常の経営の結果やむをえず生じたものであるかどうかを厳密に検討し、企業の放漫経営によるもの、過大分配によるもの、または操業休止中に発生したものなどは当然排除されることになるのであって、令七条一項三号を受けた公示一三条は、「廃止日における欠損の額のうち、止むを得ない理由により発生したと認められる額を基準として算定する」とし、その趣旨を示しているのである。
しかるところ、被告が否認した原告主張の損金はいずれも左記理由により損金ないしはやむをえない損金とは認められないのである。
1 塩田賃借料の支払いによる損金否認について
原告が塩田賃借料支払いによる損金として主張する昭和三四年度分一一、二八〇、三五一円および昭和三五年度分一九六、六三三円のうち一、六三〇、四八二円を否認した理由は次のとおりである。すなわち、
原告は、昭和三三年度の塩田賃借料として一ヘクタール当り約一五〇、〇〇〇円(なお、昭和三二年度は一〇〇、〇〇〇円であった。)しか支払っていなかったのに、昭和三四年度以降はこれを約二〇〇、〇〇〇円に引上げて支払ったが、かような支出は当時かかえていた繰越欠損を更に増大させ、その分についても欠損補填交付金で補おうとするものであり問題があるので、被告は妥当な経費として認められる昭和三四、三五年度の塩田賃借料の限度を昭和三三年度の全国平均たる一ヘクタール当り一九二、〇〇〇円とし、原告の塩田賃借料(昭和三四年度は一一、二八〇、三五一円、昭和三五年度は一九六、六三三円)のうち、これをこえる合計一、六三〇、四八二円につき、公示一三条にいう「止むを得ない」損金とはいえないと認め、これを否認したのである。
(右の点に関する原告の反論について)
原告は原価要素たる塩田賃借料のみをとりあげて製塩業者の平均をもって査定するのは不当であると主張するが、被告は塩田賃借料を原価要素として製塩業者の平均により原告の塩田賃借料の一部を否認したものではない。すなわち、塩田賃借料は、採かん費、煎ごう費、管理費、支払金利等の原価要素に含まれず、塩田補償料ともいわれ、その性格は、一般的意味での賃借料のほか、組合員に対する生活補償、利益分配の性格を有するものである。したがって、これを廃止業者の欠損として国の負担により解消させるに際しては、これにつき必要経費として認められるべき基準を設定することとなるが、被告はその基準として昭和三三年度の全国平均たる一ヘクタール当り一九二、〇〇〇円を採用したにすぎないのである。そして、右平均は製塩業者により一ヘクタール当り約二〇、〇〇〇円から約三六〇、〇〇〇円まで差異のある実績を均らしたものであるうえ、その製塩業者のうちには塩業を廃止しなかったもの(これらの業者は廃止業者に比し概して経営成績が良好であった。)も含まれているから、右平均を基準としたのは妥当である。
2 損失分担金の返戻による損金について
原告は昭和三二年度において欠損補填のため組合員から徴収した損失分担金六、五六七、三八二円を累計欠損のまだ解消していない昭和三四年度の仮決算において組合員に返戻したが、かような行為により増大した損金は公示一三条にいう「止むを得ない」損金と認められないで、被告はこれを否認したのである。
(右の点に関する原告の反論について)
原告主張の事実中、右損失分担金の額が原告がその組合員に対し支払うべき昭和三二年度の塩田賃借料の額と一致することは認めるが、右損失分担金の計上が実質を伴わない架空のものであったことは否認する。仮に、右帳簿処理が架空であったとしても、税務当局はこれに基づき課税をし、また、右帳簿処理に基づく原告の決算処理はその総会において承認されたのであるから、善意の第三者たる被告が右帳簿上の事実を確定した事実として取扱うのは当然である。
3 施設除却費等の損金について
除却施設および除却器具は、昭和三四年三月末日に買収施設とともに取得されたものであるが、いずれも当時既に物件としての原形をとどめないか、または原形があっても満足な使用価値を有しないものであったから、原告がかような物件を買収し、直ちにこれを除却ないし経費処分して会計上除却損または経費として記帳したのは放漫経営の最たるものであるので、被告は右損金は公示一三条にいう「止むを得ない」損金ではないと認め、これを否認したのである。
また、買収施設に対する減価償却費を否認したのは買収施設の取得価額のうち、交付金算定の前提となる取得価額としてはその処分見込価額をこえる部分を認めることができないこと前記(第三の二(一)2参照)のとおりであり、したがって、これについて減価償却費を認める余地がないからである。
4 利息の支払いによる損金について
法、令は廃止業者の廃止後の利息を一切交付金の対象と認めない建前であるところ、原告は前記のように工場、塩田を順次廃止しているので、複数の廃止業者とみられるから、原告が工場施設のための借入金に対する利息として支払ったもののうち、工場廃止後の分二、六五〇、四九六円、新浜、久々井浜両塩田施設のための借入金に対する利息として支払ったもののうち右両塩田の各廃止後の分九五、三九六円および運転資金のための借入金で先に廃止した工場、右両塩田の運転資金に充てられた分に対する利息として支払ったもののうち、右工場、両塩田の各廃止後の分二八三、五三四円の合計三、〇二九、四二六円は、当該工場、両塩田の廃止によって成立した廃止業者に対する交付金としては認めることができず、また、廃止の後れた前潟浜等塩田について生じた損金とも認めることができないので、被告はこれを欠損補填交付金の対象たる欠損と認めず、否認したのである。
5 退職金の支払いによる損金について
令五条は特に退職金支払交付金の額を定めているから、原告が支払った退職金のうち、右の額をこえる分まで欠損として認めることが許されないので、被告はこれを欠損補填交付金の対象としては否認したのである。
第四被告の主張に対する原告の認否ないし反論
一 被告主張の総論に対して
被告主張の総論中、法令等の制定経緯は、塩の生産過剰の原因の一半が製塩業者にもあったという趣旨に帰する点を除き、すべて認める。
塩の生産は、塩専売制度に基づき被告の厳重な監督、指導のもとに行なわれ、その生産計画およびこれに見合う生産施設の拡充ならびに塩価の決定等すべてについて塩製造業者の自由になしうるものはなかったから、塩の生産過剰という事態が生じたのは行政指導を誤った被告の責任である。そして、被告主張の塩業整備は、国家財政の見地から、かような事態に伴なう塩事業会計の赤字増大を防いで国民の税負担を軽減するため、一定数量の塩の生産を減らす必要上、相当範囲の塩製造業者に長年従事してきた塩の生産を放棄させようとするものである。しかも、その方法として、原則的には塩製造業の自主廃止の建前をとってはいるものの、もし、塩製造業者が自主廃止に応じないときには、強制廃止の措置をとりうることにもなっているのであるから、右の塩業整備は実質的には強制的契機を含んでいるのである。したがって、法により廃止業者に交付される交付金は、企業廃止による損失に対する代償にほかならず、当然憲法上の補償の性質を有するものである。
二 被告主張の各論に対して
(一) 減価補填交付金に関するもの
1 汽缶設備について
(1) 汽缶1の基準日簿価の調整の点について
被告主張の事実中、汽缶1の旧水管部分が昭和三三年三月中に新水管と取りかえられたため基準日に存在しなかったこと、原告が汽缶1につき被告主張の総合償却法をとっていたことおよび新水管が交付金算定の対象とされたことは認める。
原告は被告が自認するように汽缶1につき耐用年数の異なる汽缶本体と水管とを一体として処理する総合償却法をとっていたが、総合償却法による場合には、そのいずれかの部分が除却されても、簿価は現存設備の価額を表わすものであるから、右除却を理由に簿価を調整して除却損益を計上しないのが企業会計上むしろ通常の処理方法である。現に、大蔵省企業会計審議会の企業会計原則と関係諸法令との調整に関する連絡意見書第三「有形固定資産の減価償却について」の第三「税法と減価償却」の二の4「総合償却」には、「総合償却法においては、個々の資産の償却額や未償却残高は明らかにならない建前であり、したがって除却損益を除却時に計上することもないはずである。」としている。
また、被告主張の基準日簿価の調整を行なって交付金を算定するのでは、旧水管部分の投下資本のうち、被告主張の計算による同部分の基準日簿価相当額は結局回収されないこととなり、未回収投下資本が通常は施設等の価額または欠損として帳簿に計上されているものと考え、その両者を交付金算定の対象としている法の趣旨にそわないことになる。
次に、被告は右旧水管が廃止日に現存しなかったとしてこれを交付金算定から除外したが、右旧水管は汽缶本体の構成部分であって、独立の製塩施設ではないから、汽缶本体が現存するかぎり、その構成部分の一部である旧水管が現存しなくても、その部分の簿価を除却すべきものではない。
仮に、旧水管部分の簿価を除却すべきものとしても、被告主張の算出方法は、左記理由により違法である。すなわち、
被告主張の算出方法は、汽缶1の基準日簿価を汽缶本体および旧水管部分の各取得価額の比率をもって按分し、旧水管部分の基準日簿価相当部分を算出するものであるが、それでは、結局、効用を失って取りかえられた旧水管の簿価を不当に高く算出することになる。けだし、水管は通常その耐用年数が三、四年であり、右旧水管は除却当時既に約五年を経過して完全にその効用を果し、実質上償却ずみのものであるから、右算出方法によると、右旧水管につき、汽缶1の総合耐用年数(一五年)と同じ耐用年数を有するものとして算出するのと同じ結果となるからである。
また、法人税法基本通達二二二号は、総合償却法をとっている場合には、その一部につき除却するにしても、その取得価額の一割を残存簿価とみてこれを除却するとしているのであって、被告主張の右算出方法は右通達にも違反する。
(2) 汽缶1、2の処分見込価額の認定の点について
被告主張の事実中、汽缶1、2が現実に処分されたことは認める(ただし、右汽缶設備は他の設備と一括処分されたものであり、他の設備についてはともかく、右汽缶設備については被告主張のように中古品として処分したものではない。)。また、被告の依嘱した鑑定の方法およびその結果は不知。
被告は右汽缶設備を中古品と認めてその処分見込価額を決定したが、右汽缶設備は、次にのべるような事情により、屑として処分するほかないものであったから、その処分見込価額は臨整二五号通達別紙第8の2(2)ロの算式によって算出すべきである。
すなわち、右汽缶設備は、前記のとおり、昭和二八年五月新設されたタクマ式四トン水管ボイラーに昭和三一年二月水冷壁を附設したものであるが、原告が製塩業を廃止した昭和三五年頃には既に旧式のものとなっていて、原告がその使用をやめた以上、他の者がそれをそのまま現場で使用することを期待するのは不可能であって、これを処分するには撤去を要し、しかも、右汽缶設備はドラムと水管等との組合わせによってできていて、その容積からしてそれを組合わされたまま輸送することは到底不可能であり、その撤去には解体を要し、また、その解体には水管を切断せざるをえないのである。かくては、水管は約三〇センチメートル短縮されて規格に合わなくなり、また、ドラムを除いた大部分は撤去されると瓦礫同様になるので、結局、右汽缶設備は屑としての処分見込価額しかなかったのである。
そして、その処分見込価額は、汽缶1については、その廃止日簿価の一〇パーセントたる一一三、五八六円、汽缶2については、水管のスクラップとしての概算たる三〇、〇〇〇円をこえるものではない。
2 買収施設について
被告主張の事実中、原告の買収施設が原告の会計帳簿上、昭和三四年三月末日取得したものとして会計処理され、また、原告の役員において作成し総会の承認を経て監督官庁(被告)、税務当局、関係金融機関等に公表した決算書類ならびに本件における交付金請求書にも同様に記載されていたこと、買収施設がすべて原告において塩業関係者から取得し、右帳簿上の取得時以前から現実に使用していたものであること、原告がこれにつき賃料等を支払っていなかったことは認める。
しかし、原告が買収施設を取得したのは基準日前たる昭和三〇年七月頃であって、この点に関する原告の会計帳簿その他の記載は帳簿処理が遅れていたことによるものにすぎない。すなわち、原告は昭和二八年中に塩の煎ごう工場を新設して以来、その組合員が各自被告の許可を受け自己の企業として自己の塩田で製造したかん水を買入れて煎ごうしてきたが、被告は昭和二八、九年頃から従来の入浜式塩田を流下式塩田に転換させる方針をたて、そのため昭和三〇年初め頃右転換工事およびこれに要する資金の借入、償還ならびに転換後の塩田の経営等をすべて塩業組合において行なうように指導した。これによると、従前採かんと煎ごうとを組合員と組合とがそれぞれ分担していたものを、すべて塩業組合が行なうことになり(これがいわゆる組合経営の一本化といわれたものである。)、組合員にしてみれば祖先伝来の採かん事業を失うことになるところから、右一本化に反対であったが、被告の方針が強硬なため、原告の組合員においても各自の所有する塩田、土地は原告が賃借し、その塩田設備については原告が買収する等の条件でようやく右方針に同調し、各自の採かん事業を原告に譲渡(一種の営業譲渡)したので、原告は昭和三〇年七月一日から組合の一本化経営を開始した(その結果、採かん事業を原告に譲渡した組合員の多くは実質的には原告の従業員となったが、採かんの許可をそのまま保有していたため、形式的には独立の製塩業者であった。)。
右の経過の詳論は次のとおりである。すなわち、原告は、まず組合経営の一本化を内容とする計画書を作成して昭和三〇年五月二八日通常総会において組合員の同意を得、その後同年六月末までに各組合員から塩田設備を買収し、同年七月一日までにそのすべてにつき現実の引渡しを受けて使用を開始し、次いで同月五日および七日の役員会兼組合員協議会において右買収価額の評価基準を定め、その後約一、二か月の間にこれによって各買収設備の価額が決められたので、別表二の(三)の物件については昭和三〇年九月頃までに、また同表二の(一)の物件(本件買収施設)については昭和三四年三月末日までにそれぞれ右価額の代金を支払った。右のように別表二の(三)の物件についてだけ代金の支払が先行したのは、組合員が資金の急を要したり、右物件が売主たる組合員所有の塩田にのみ使用されるものでない等の事情があったことによるにすぎない。また、別表二の(一)の物件については、原告の経済的事情から直ちに代金全額を支払うことができなかったが、これを借入金として処理すれば、組合規則により日歩三銭の利息を支払わなければならないことに対する配慮も加わり、忙しさにとりまぎれて帳簿処理が遅れたにすぎない。
現に、被告の岡山地方局長から被告の臨時塩業整備本部長あての岡塩生第三三一号照会(臨整(一)第二五四号の二別紙(1))には、「当局管内、玉野塩業組合は昭和三〇年一月に組合一本化を図り、総会において各組合員の製塩施設全部を組合が購入することを決議し、当時その一部施設を購入し、残部については適当な時期に決議価額にもとづいて購入することとしていたが……」とあり、また、被告の塩業整備本部長から被告の岡山地方局長あての「製塩施設の減価をうめるための費用に係る交付金の算定について(回答)」と題する昭和三四年一二月三日付右照会に対する回答(臨整(一)第二五四号)も原告につき、「本件が基準日前の総会決議の履行という止むを得ない事情が明らかであるので特に認めることとした」として、原告の施設の買収が組合一本化によるものであることを認め、本件買収施設のうち、原告が宇野港土地株式会社から買収したもの(別表二の(四))につき、原告請求額の一部にあたる交付金を認めたのである。
したがって、本件買収施設については令四条五項により交付金を算定すべきであって、被告がこれを基準日以後の取得にかかるものと認定して同条四項二号およびこれに基づく臨整二四号通達別紙Ⅰ6(1)③を適用したのは誤りも甚だしい。
仮に、令四条五項が適用されないとしても、同条四項二号は基準日以後の取得を前提とするから適用すべきものではない。
仮に、買収施設の取得が被告主張のように基準日後たる帳簿処理の日であるとしても、これに対する交付金の算定には、令四条四項二号により、当該製塩施設につき、その取得価額(当該取得価額が通常の価額を著しくこえていると認められる場合には、当該取得価額からそのこえる金額を控除した金額)からその取得日後廃止日までの期間に対応する償却額を控除した金額をもって製塩施設の価額とすべきであって、固定資産で塩業関係者から取得したものは、処分見込価額と取得の日から廃止の日までの賃料相当額の合計額をこえる金額は認めないとした前記通達条項は、右令の規定に違反するから、適用すべきではない。
また、仮に、右通達条項が右令の規定に違反しないとしても、買収施設の取得は前記経緯のように塩業の継続を前提としたものであって、塩業の廃止による交付金を目当てになされたたものではないから、右通達条項を適用することには合理性がない。原告の意図がどこにあったかは、原告がその頃には工場は廃止しても、優秀な部類に属する流下式塩田は残すつもりで手数をかけて新たな組合定款、事業合理化計画書などを作成していたことから明らかである。また、被告が原告には買収施設に対する賃借料支払の実績がなかったとして、右通達にいう「賃料相当額」を認めなかったのは、右通達の解釈を誤った違法がある。けだし、右通達にいう「賃料相当額」とは客観的に正当と認められる賃借料相当額を指すものと解すべきであるからである。
3 塩田堤防施設の保存、改良費について(特に亀浜塩田堤防について)
被告主張の事実中、亀浜塩田堤防につき正規の帳簿処理がなされていなかったとの点は否認する。正規の帳簿処理はなされていたが、右帳簿が交付金算定当時保存されいなてかったにすぎない。
塩生産費調査手続によれば、三〇、〇〇〇円をこえる災害復旧費は塩収納価額に算入しないとし、また、当時の法人税法施行細則七条によれば、耐用年数一年未満もしくは取得価額一〇、〇〇〇円以下のものは固定資産として計上することを要しないとしているから、塩田堤防の保存費は解釈上当然資本支出とみるべきであって、これに旧法人税法施行規則一〇条の二の基準を適用するのは誤りである。仮に、右基準を適用することに合理性があるとしても、災害復旧工事は単に以前の脆弱な状態に復元するに止まるものではなく、当然耐用年数を延長させるものである。なお、右堤防の災害復旧工事のうち、昭和二七年に行なわれた内堤防分は原型より石垣を一本嵩上げしたものである。
また、右堤防の復旧工事は補助金の交付を受けてなされたものであるから、これに対する費用の支出は臨整二四号通達別紙Ⅰ6(2)、臨時塩業整備本部長から各地方局長あての昭和三四年一〇月五日付「固定資産の耐用年数について(回答)」と題する臨整(一)第一四五号の二通達、同本部長の昭和三四年一二月三日付「補助金を受けた製塩施設の価額の算定について」と題する臨整(一)第二五七号通達によって、無形固定資産として三五年の耐用年数を有するものとして取扱われなければならないのであって、被告がこれにつき臨整二四号通達別紙Ⅰ6(4)を適用したのは誤りである。
(4) 入川浚渫費について
原告は、昭和三〇年頃入川に沿った堤防の修復工事をしたが、そのため砂礫等で埋った入川を浚渫する必要が生じたので、その頃久々井部落が浚渫する機会に原告の必要とする部分の浚渫を同部落に依頼し、その代償として同部落に一〇〇、〇〇〇円を寄附したのである。したがって、その経緯から明らかなように、右寄附金は実質上右堤防修復工事の附帯工事費であるから、原告は仕訳上これを設備費(無形固定資産)として計上したのであって、久々井浜塩田の廃止日現在における未償却残高七三、七九五円については、減価補填交付金が交付されるべきである。
仮に、原告の右仕訳が誤ったものであるならば、その金額だけを設備費から経費に振替えることは可能であるとともに、そのような操作をすれば、その分だけ欠損額が増大することになるから、その分につき欠損補填交付金が認められるべきである。
(二) 退職金支払交付金に関するもの(勤続月数の認定について)
原告は、流下式塩田に転換するにあたり、波止浜塩業組合に対し流下式採かんについての指導員の派遣を要請したところ、同組合は昭和一八年四月一日以来同組合に勤務していた檜垣浅一を原告に転属させたので、同人は昭和二九年一月二六日から廃止日まで原告に勤務することとなったが、右転属は本人の都合によるものではなく、雇主側の都合によるものであったから、同人の勤続月数は公示六条の規定により右転属の前後を通算すべきである。
もっとも、波止浜塩業組合、原告および檜垣浅一の間には右転属に際し退職金に関して明確な取りきめがされず、むしろ、同人は、原告での任務が終り次第波止浜塩業組合に復帰することを予想して、同組合から退職金の支給を受けてはいなかったのであるが、当時予想もしなかった企業の廃止という事態が原告および右組合に生じ、檜垣の復帰すべき職場がなくなった以上、同人の波止浜塩業組合における勤続年数も原告における勤続年数に通算するのが相当である。
(三) 塩田転用交付金に関するもの(塩田面積の認定について)
塩田転用交付金が塩田を農地に転用することを予想し、盛土の必要のないものに対しては交付されないのが令六条二項の趣旨であるとの被告の主張は争う。同項によれば、むしろ、附属施設の敷地に対しては、たとえそれが盛土の必要がなく、また、堤防の上にあったとしても、塩田転用交付金を交付すべきものである。現に、戦後、飛行場跡にできた流下式塩田は、埋立てを要しないのに、塩田転用交付金の対象となったのである。
また、原告のいう釜屋敷を盛土の必要のない堤防と認めるべきであるとの被告の主張は誤っている。右釜屋敷とは、かん水採取の目的でさん砂されている土地または溜下盤と堤防との間にあって、その両者の中間の高さに位置しているものであり、その上に塩田で採取したかん水を貯蔵し煎ごうするためのかん水溜と釜屋とが設けられていたものであり、その土地台帳上も地目を塩田として記載されているものであって、これを堤防というのはあたらない。したがって、右かん水溜等の附属施設の敷地は令六条二項の附属施設の敷地として扱うべきである。また、被告は、従来、釜屋敷上の施設に対する災害復旧等の補助金支給については堤防に対する高率の補助金率によらず、塩田施設に対する一般の補助金率によってきたが、これは被告が釜屋敷を堤防とみなかった証左である。なお、右かん水溜の底面はほぼ塩田と同じ高さであるから、その部分の農地転用には盛土が必要である。
(四) 清算費用交付金に関するもの
被告は、令七条一項二号にいう原告の清算費用交付金の限度額について、前潟浜等塩田に対する交付金の額だけを基礎として算定した二、六〇五、四一四円が相当であると主張するが、右主張は法令の解釈を誤ったものである。
原告の清算費用交付金の限度額は、原告に対する工場、新浜塩田、久々井浜塩田および前潟浜等塩田の交付金の額(清算費用を除く。ただし、被告が本件決定においてすでに認容した二六五、八二四、三六五円に原告が本件訴えにおいて不足額として主張している三五、四三六、一一〇円を加算した三〇一、二六〇、四七五円)の二パーセントたる六、〇二五、二一〇円でなければならない。けだし、原告は、昭和三四年一〇月二二日の臨時総会において昭和三五年三月末日までにその工場および塩田を順次廃止して解散することを決議し、そのすべての工場および塩田の廃止を右決議どおり一連の事項として実行し、これに伴って解散したものである以上、令三条二号、七条一項二号にいう「廃止業者」としては全体として一個のものと観念すべきであるからである。なお、仮に、右主張が認められない場合には、清算費用交付金についての被告の決定額については争わない。
次に、被告は公示一二条の各項目別に臨整二四号通達別紙Ⅴ2を適用したが、公示一二条一号と二号および三号と四号はそれぞれ通算して判断しなければならないものである。けだし、同条一号と二号についてみれば、一号の清算人報酬と二号の清算事務従事者の給与とは、清算人の数が少なくその報酬額が少なければ、かえって清算事務従事者の数が多くその給与額も多くなる関係にあるので、清算人の報酬が低いからといって、清算事務従事者の給与も低くてすむというものではなく、また、同条三号と四号についてみれば、三号の清算事務費と四号の施設の保全管理費とは、その仕訳上の区分の方法が明確にされていないためその区分が困難であり、解釈の相違が生じるところであるからである。ちなみに、原告が清算事務費としては三八〇、〇〇〇円しか請求せず、施設の保全管理費としては三、六〇〇、〇〇〇円も請求したのは、原告が前者を清算事務用品費等を主体に考え、後者を保全管理のために必要なあらゆる費用と考えたことによるものであるが、被告の見解では原告が後者に入れたものの大部分が前者に入ることになるのである。
右のとおり、公示一二条一号と二号および三号と四号をそれぞれ通算して判断するとすれば、原告の場合、清算人の報酬および清算事務従事者の給与の通算限度額は臨整二四号通達別紙Ⅴ2①②により二、四三〇、〇〇〇円(①の八一〇、〇〇〇円および②の八一〇、〇〇〇円の二〇〇パーセントたる一、六二〇、〇〇〇円の合計額)であるから、原告が清算人報酬として六三〇、〇〇〇円しか請求していない以上、清算事務従事者の給与としては一、八〇〇、〇〇〇円まで認めるべきである。また、清算事務費の限度額は右通達別紙Ⅴ2③により①の清算人報酬限度額八一〇、〇〇〇円に②の清算事務従事者給与限度額一、六二〇、〇〇〇円を加算した二、四三〇、〇〇〇円の八〇パーセントたる一、九四四、〇〇〇円であり、製塩施設の保全管理費の限度額は前示のとおり原告に対する工場、新浜塩田、久々井塩田および前潟浜等塩田の減価補填交付金一三八、四二七、五一一円(被告が本件決定においてすでに認容している一一五、九五一、三四七円および原告が本件訴えにおいて不足額として主張している二二、四七六、一六四円の合計額。なお、被告がその限度額の算定の基礎として前潟浜等塩田の減価補填交付金のみに限ったのは誤りである。)の〇・五パーセントたる六九二、一三七円であって、その通算限度額は二、六三六、一三七円であるから、原告が清算事務費として三八〇、〇〇〇円しか請求していない以上、製塩施設の保全管理費としては二、二五六、一三七円まで認めるべきである。
(五) 欠損補填交付金に関するもの
1 塩田賃借料支払による損金について
被告主張の事実中、原告の昭和三三年度の塩田賃借料が一ヘクタールあたり約一五〇、〇〇〇円であったこと、原告がこれを昭和三四年度以降約二〇〇、〇〇〇円に引上げて支払ったこと、原告が当時繰越欠損をかかえていたこと、昭和三三年度の塩田賃借料の全国平均額が被告主張額であることは認めるが、その余の点は争う。
被告は、原告が昭和三四、三五年度中に支払った塩田賃借料のうち、昭和三三年度の全国平均額をこえる部分を否認するが、原告は塩田賃借料として昭和三三年度には右平均額よりはるかに少ない額しか支払っていないので、昭和三四、三五年度に右平均額をわずかにこえる額を支払っても、通算すれば、決して過大な支払をしたものといえないから、原告の塩田賃借料の支払に基づく損金は、その全額が公示一三条にいう「止むを得ない」損害ということができる。
また、公示一三条は、塩収納価額が全製塩業者の塩の総生産費の平均をもって決定されていたため、右平均以上の生産費を費していた製塩業者に必然的に生ずる欠損を補填する趣旨のものであるから、総生産費との対比から同条にいう「止むを得ない」欠損かどうかの基準を定めるならともかく、単に採かん費のなかの一費用にすぎない塩田賃借料のみを摘出し、その製塩業者の平均をもって律するのは、採かん費のなかの個々の費目(労務費、消耗品費、減価償却費等)についてさえ、その占める割合が製塩業者によって区々なものであるから、合理的なものということはできない。そして、そのような総生産費についてみるかぎり、原告は全製塩業者の平均より低額であったのである。
2 損失分担金返戻による損金について
原告の損失分担金は、次のような経緯により設定されたものである。
原告は、その財政的事情から、その組合員に支払うべき昭和三二年度の塩田賃借料合計六、五六七、三八二円を組合員の出資積立金とし、現実には支払わなかったが、それでは組合員は現実の収入がないのに課税される結果となるので、経理上、組合員に右塩田賃借料を支払い、組合員からこれと同額の損失分担金を受入れたように処理し、組合員には税務上、右塩田賃借料を事業所得における収入、右損失分担金をその経費として処理させたのである。
したがって、原告は、昭和三四年度の仮決算において右損失分担金を組合員に返戻したとして解消したが、それは、原告が解散にあたり、従前の架空の帳簿処理を本来あるべきものに訂正したものにすぎないのであって、あらたに欠損を増大させるような行為をしたものではない。すなわち、形式的には損失分担金の解消により損金が発生したようにみえるが、実質的にはその損金は昭和三二年度の塩田賃借料の支払により発生したものであるから、右損金は公示一三条にいう「止むを得ない」損金ということができる。
3 施設除却費等の損金について
被告主張の事実中、原告が除却施設および除却器具を買収施設とともに取得したことは認めるが、その取得時期が被告主張の時期であったとの点は否認する。
右除却施設および除却器具はいずれも入浜式塩田用のものであったが、原告は流下式塩田への転換ならびに経営の一本化推進のため、買収施設について前述したのと同じ事情のもとにこれを買収したのである。そして、そのうち、右除却施設は原告の新浜塩田を除く他の塩田が流下式に転換したのち、その大半が自然消滅したが、買収施設の場合と同様、帳簿に記帳されていなかったので、原告は昭和三四年三月末日をもってあらためてこれを施設として記帳し、これを同年一〇月二一日および昭和三五年三月三一日に除却し、その除却損を計上したのであり、また、右除却器具は新浜塩田においては最後まで採かん用に、他の塩田においては流下式塩田への転換用に使用されたが、右同様、帳簿に記帳されていなかったので、原告は昭和三四年三月末日をもってあらためてこれを買収物件として記帳し、右器具はいずれも一〇、〇〇〇円以下の消耗品であったので、これを同年一〇月一二日に経費処分したのである。
また、買収施設の取得時期が前記のとおり昭和三〇年七月頃である以上、これに対する減価償却費を交付金の対象として否認するのは誤りである。
以上のとおりであるから、右施設除却費等の損金はいずれも公示一三条にいう「止むを得ない」損金ということができる。
4 利息の支払による損金について
被告主張の事実中、原告の借入金を被告主張の借入金名目によって分類し、これらに対する各利息分を計算すれば、被告主張のように工場、塩田等の廃止後に支払われた分が被告主張の額となることは認める。しかしながら、企業においては借入金の返済に充てられる資金源が当初の借入目的に従って投資された施設から生じた利益に限られるものではないから、借入金の元利とも被告主張のように特定の施設との関連において特定しうるものではない。のみならず、仮に原告が前潟浜等塩田を廃止するまでの間に発生した利息が先に廃止した施設の借入金に対するものとして特定することができたとしても、それは当然原告において支払わなければならない性質のものであったから、その支払による損金は公示一三条にいう「止むを得ない」損金ということができる。
なお、原告は先に廃止した工場、塩田に配置された事務所、かん水関係の設備をその廃止後も使用して前潟浜等塩田の経営を続けていたのであるから、廃止業者につき被告主張のような個数観念を入れると、正当な賃借料を支払うべきであるが、その額はほぼ右利息の額に相当するから、これに代わるべきものとしてなされた利息の支払による損金は公示一三条にいう「止むを得ない」損金というべきである。
5 退職金の支払による損金について
原告がその従業員に対し令五条による退職金支払交付金以外に四、七九九、九八四円(工場従業員分二、七二四、〇七〇円、塩田従業員分二、〇七五、九一四円)を追加支払をしたのは、次のような事情による。
すなわち、各廃止業者は令五条に基づいて被告から交付された退職金支払交付金をその従業員に支払ったが、従業員はそれに満足せず、横の連絡をとり、全国的運動をおこし、各廃止業者に対し退職金の追加支払を要求したため、原告も右要求に抗し切れず、右金額を追加支払したのである。
したがって、右支出に基づく損金は公示一三条にいう「止むを得ない」損金というべきである。
第五証拠関係≪省略≫
理由
第一係争の行政処分およびその根拠法規
一 原告が塩専売法六条一項の「塩またはかん水」の製造の許可を受けたものであるところ、その工場および塩田全部につき、請求の原因一掲記の表のとおり、順次同法一二条一項の塩またはかん水の製造の廃止を申請し、その許可を受け、被告の指定した期限(昭和三五年四月二五日)内にこれを廃止し、昭和三五年五月三〇日塩業組合法六四条に基づいて解散し、現に清算中であること、原告が塩業整備臨時措置法二条、四条に基づき被告に対し昭和三四年一一月三〇日、同年一二月五日、昭和三五年一月二〇日、同年四月三〇日の四回にわたり、書面によって塩業整理交付金の交付を請求したところ、被告が昭和三五年一〇月一日付をもって右請求に対する交付金の総額を二六六、八八九、八四五円と決定し、同月一〇日原告にその旨通知したこと、原告が右決定額を不服として同月三一日日本専売公社総裁に対し異議申立てをしたところ、同総裁が昭和三六年三月二九日その一部を認容し(すなわち、原告の欠損補填交付金として一、四六五、四三七円を追加し、その結果、交付金総額は二六八、三五五、二八二円に変更された。)、その余を棄却する旨の決定をなし、同年四月三日原告にその旨通知したことは当事者間に争いがない。
二 そこで、最初に、右処分の適否を判断するのに必要な限度において、右処分の根拠法規等の制定経緯および構造についてみることとする。
当事者間に争いのない事実に≪証拠省略≫を総合すると、右処分の根拠法規等の制定経緯および構造は次のとおりであることが認められる。すなわち、
被告は、国内における食料用塩の国内自給を図るため、昭和二五年頃からその増産政策として、製塩設備および技術の合理化を推進し、従来の平釜式煎ごう方式を集約煎ごう方式に、また、入浜式塩田採かん方式を流下式塩田採かん方式にそれぞれ転換させた結果、昭和三〇年頃から急速に塩生産量が増大し、国内における食料用塩の全需要量を上廻ることとなり、食料用塩としては相当の生産過剰をきたすことが明らかになったため、従来輸入塩で占められていた事業用の分野にこれをふり向ける方策を進めたが、生産量の増加の割には生産費が低下せず、輸入塩の方が遙かに低廉なため思うにまかせず、昭和三三年度末には、その在庫量は七八万四千トンにも達し、その塩事業会計の赤字も一五億八千万円に達するに至った。
そして、被告から、かような事態の解決策につき諮問を受けた塩業審議会は、昭和三四年一月一六日被告に対し塩需給対策要綱(以下、要綱ともいう。)をもって答申したが、同要綱は、製塩施設の整理につき、「(1)整理は、今後の価格政策による長期的な採算についての、企業の自主的な判断に基いて行なうことを原則として、適切な指導を行なうこととするが、必要やむをえない場合は、強制措置も考慮すべきである。(2)整理は、昭和三十四年度および昭和三十五年度においてなるべく早期に行ない、その間に整理に応ずるものに限り、公社は、合理的な補償措置を講ずるべきである。」とし、また、その整理補償につき、「(1)今回の整理対象は、企業的に採算が困難で、将来にわたる期待収益力を持ちえないものであるが、整理に伴う経済的、社会的混乱を防止し、製塩業者及び従業員の転職が円滑に行なわれるよう適切な補償を行なうべきである。(2)補償は、次の原則によることが適当である。(イ)設備については、妥当な資本投下額で、整理により回収できないと認められる額を補償する。(ロ)塩田土地については、これを他の用途に転用するものとして、その費用の一部に相当する額を補償する。(ハ)塩田製塩業者の営業補償として、整理時の収納価格による、推定所得の一定期間分を補償する。(ニ)従業員の退職金として、社会通念に従い、適正と認められる額を補償する。(ホ)清算のため特別の費用を要すると認められる場合においては、その一部に相当する額を補償する。」とし、右のような事態を解決し、国内塩業が健全な産業として自立しうる基盤を強化、整備する対策の一つとして、製塩設備の整理および整理に伴なう補償の必要を答申した。
本件処分の根拠法規たる塩業整備臨時措置法は、右答申に基づき制定されたものであるが、同法は、その二条において、一定の要件のもとに塩またはかん水の製造を廃止した業者に対し、被告が交付金を交付することができる旨を定め、右答申のあげた各補償原則に対応する交付金については、その三条一項において、減価補填交付金(未回収投下資本の補償に対応するもの)、退職金支払交付金(退職金にあてる費用の補償に対応するもの)、および塩田転用交付金(塩田転用費用の補償に対応するもの)についてのみ直接規定し、他の補償原則に対応する交付金についての定めおよびその各交付金の額の算定基準をすべて政令に委任したので、塩業整備臨時措置法施行令は、右委任に基づき、その三条一号において推定所得交付金(推定所得の補償に対応するもの)を、同条二条において清算費用交付金(清算費用の補償に対応するもの)を、また、同条三号において欠損補填交付金(未回収投下資本の補償に対応するもの)をそれぞれ定めるとともに、その四条ないし七条において、それぞれの交付金の額の算定基準を定めたが、同令は、例えば、五条四項、七条一項二号および三号などにおいて、交付金の額の算定基準の細部の定めを被告に再委任したので、被告は右委任に基づき、交付金の額の算定基準の細部について公示(昭三四・五・九、日本専売公社公示第五号、昭和三四・九・二三、同公示第一一号一部改正)を定めるとともに、右法、令等の解釈、適用、取扱基準等につき、臨時塩業整備本部長名をもって臨整二四、二五号通達等いくつかの通達を発した。以上の事実が認められ、右認定に反する証拠はない。
右のように、法および令は、要綱の未回収投下資本の補償について、減価補填交付金と欠損補填交付金との二項目に分けて規定したが、その理由は、≪証拠省略≫を総合すると、次のとおりであることが認められる。すなわち、
法の立案段階において、要綱の表現をそのまま使用し、未回収投下資本の回収という規定をおくことは、立法技術上問題であり、要綱にいう未回収投下資本の回収というのは、結局のところ、貸借対照表上借方に表示されるもの、すなわち資産および欠損のある場合には当該欠損が回収されることを指すものであるから、法および令においては要綱の未回収投下資本という表現をのけ、資産および欠損の補填費用という二項目に分けられたこと、そして、資産のうちでも流動資産については、通常ほぼ帳簿価額をもって直ちに換金しうるので、これに対する投下資本の回収は企業に委ねることによっても充分達成しうることから、交付金の交付対象から除外することとし、結局、法、令においては、固定資産に対する投下資本(未償却減価)の回収として減価補填交付金を、また、欠損については欠損補填交付金をそれぞれ交付することとし、これによって投下資本の回収を可能にしたものであること、なお、本来企業の経営責任に帰すべき欠損に対しても交付金を交付するとしたのは、本件塩業整備当時、各製塩業者がかかえていた欠損が必ずしもその経営責任によるものとばかりはいえず、被告の塩専売政策の誤りまたは不可抗力による部分もあるとみられたうえ、生産費の高い国内塩の過剰生産力を可及的早期に除去すれば、それだけ塩事業会計の赤字の増大を防ぎ、国費の負担を軽減するのに役立つと考えられたことによるものであり、したがって、放漫経営によるなど明らかに企業の責任によって生じた欠損までも交付金の交付対象とする趣旨のものではないこと、以上の事実が認められ、右認定に反する証拠はない。
第二行政処分の瑕疵の存否
法は、前示のとおり、交付金の額の算定基準の定めをすべて政令に委任し、令はその細部の事項について被告に再委任しているから、被告としては、法、令の趣旨に反しないように、その委任の範囲内において自己の裁量において交付金の額の算定基準に必要な事項を定めることができるのであって、被告は、右委任に基づき右の必要事項について公示を定めるとともに、法、令等の解釈、運用、取扱基準等につき通達を発し、これらによって交付金の額の算定をしているのであるから、交付金の額の適否を争う本訴においては、被告が本件に適用した交付金の算定基準が法、令の趣旨にそう合理的なものであるか否か、右基準の適用が公正になされたかどうか、右基準を適用すべき事実の認定に誤りがなかったかどうかが審査されるべきである。
そこで、本件においては、右のような見地から被告のした前掲処分の適否について、以下順次検討することとする。
一 減価補填交付金に関するもの
(一) 汽缶設備について
原告の汽缶設備が昭和二八年五月に設置されたタクマ式四トン水管ボイラー(ボイラーの本体および水管からなる。汽缶1)に昭和三一年二月水冷壁(汽缶2)を附設したものであること、被告が本件処分において右汽缶設備に対する減価補填交付金として、法三条、令四条により別表一のとおりの決定をしたこと、右決定は汽缶1につき基準日簿価一、四三二、五二二円を九九四、〇五五円と調整し、汽缶1、2の処分見込価額をそれぞれ七二五、七二一円、四七四、一一四円と認定したものであることは当事者間に争いがない。
そこで、右基準日簿価の調整の点および右各処分見込価額の認定の点の当否について検討する。
1 汽缶の基準日簿価の調整の点について
原告が汽缶1につき耐用年数の異なる汽缶本体と水管とを帳簿上一体として取扱い、総合耐用年数を一五年として、定率法により減価償却するいわゆる総合償却法により償却していたこと、ところが、原告が汽缶1の水管部分を昭和三三年三月中に取りかえたため、旧水管は基準日に存在しなかったこと、被告が取りかえられた新水管につき別個に交付金の対象としたことは当事者間に争いがなく、≪証拠省略≫によれば、被告は、汽缶1の水管部分につき右のような取りかえの事情があり、そして、原告が右取りかえに要した費用を収益支出(修繕費)とせずに資本支出として資産に計上する会計処理をしていたので、取りかえられた新水管につき、右会計処理を是認して汽缶1とは別個に減価補填交付金の対象とする一方、原告が汽缶1の帳簿価額から取替工事によって撤去された旧水管に対応する部分の帳簿価額を除却していないので、汽缶1に対する減価補填交付金の算定にあたり、右旧水管部分は法三条一項にいう「製造の廃止の際に当該製造の用に供されている製塩施設」ではないとして、汽缶1の基準日簿価から旧水管に対応する価額を控除しその調整をすべきであると判断したこと、そこで、被告は、後記括弧内に記載の方法により旧水管部分の取得価額を算定したうえ、旧水管部分の基準日簿価相当額(基準日の未償却残高)につき、汽缶1のボイラー本体と水管等の個々の資産の耐用年数の差異を度外視し、旧水管部分も汽缶1全体の償却割合と同一の割合で償却されるものとみて、次式によって四三八、四六七円と算出し、これを前示汽缶1の基準日簿価一、四三二、五二二円から控除した残額九九四、〇五五円を前示調定簿価としたものであることが認められる。
旧水管取得価額(930,149円)×汽缶1の基準日簿価(1,432,522円)=旧水管基準日簿価相当額(438,467円)
(右旧水管の取得価額は不明であったので、被告は次の方法をもってこれを算定した。すなわち、新水管取替工事の直接費一、〇七〇、一七二円を基準として、臨整四八号通達別紙Ⅱの物価倍率表により、昭和二八年から昭和三三年までの物価倍率をもって逆算して算出したものである。)
ところで、法三条一項は、減価補填交付金の対象となる製塩施設をその製造の廃止の際に当該製造の用に供されているものに限っているから、廃止の際すでに現存しないものに対しては、それが個別償却資産であればもとよりのこと、たとえ総合償却資産の構成部分にすぎないものであっても、減価補填交付金は交付されないものと解するのが相当である。したがって、総合償却資産の構成過分たる個々の資産のうち廃止の際現存しないものがあり、かつ、その総合償却資産の基準日簿価にその部分の価額が含まれているとすれば、その総合償却資産に対する減価補填交付金の算定にあたっては、現存しない資産の価額に相当する部分だけ総合償却資産の基準日簿価を調整すべきである(令四条四項一号参照)。
しかるところ、≪証拠省略≫によれば、原告は汽缶1の減価償却の計算につき、耐用年数(一五年)到来時におけるその残存価額を税法上の規定(旧法人税法施行細則四条)に従い、旧水管を含めた汽缶1の取得価額の一〇パーセント(法定残存価額)としていたことが認められるところ、前示のとおり、原告は汽缶1の水管部分につき基準日前に取替工事をなし、その新水管を汽缶1とは別個の資産として計上しながら、汽缶1の帳簿価額についてはなんら除却損益の計上をしていないのであるから、汽缶1の基準日簿価には少くとも旧水管部分の法定残存価額が含まれているものと解されるので、汽缶1に対する減価補填交付金の算定にあたっては、現存しない旧水管の残存価額に相当する部分だけ汽缶1の基準日簿価を調整すべき筋合になるというべきである。
しかしながら、汽缶1につき被告の行なった前記簿価調整方法は、総合償却資産を構成する個々の資産の全部が均しく減損するものと観念し、ボイラー本体と水管との耐用年数の差異を度外視して水管を単純に総合耐用年数と同一の耐用年数を有するものとして取扱うものであって、旧水管の基準日簿価(未償却残高)の計算方法自体合理的でないうえ、被告の主張によっても水管の耐用年数は約一〇年であるというのであり、汽缶1の総合耐用年数の一五年より短いのであるから、右調整方法によるときは、旧水管の基準日簿価を不当に高く評価し、原告に不利益な結果をもたらすので、被告のした調整額を是認することはできないといわなければならない。
してみると、本件処分には、汽缶1の基準日簿価を不当に調整して、これに対する原告の減価補填交付金請求を一部否認した点に違法があるといわなければならない。
2 汽缶1、2の処分見込価額の認定の点について
≪証拠省略≫を総合すると、被告は、汽缶1、2の処分見込価額の決定にあたり、法五条一、二項、臨整二五号通達別紙第5の1に従い、不動産等の鑑定の専門的知識を有する浅沼龍雄および原田重一の両名に塩の製造の廃止を前提とした汽缶設備の処分見込価額の鑑定を委嘱したところ、両名とも該汽缶設備を中古品として処分可能なものとみ、浅沼は現場有姿のまま庭先渡しの価額として汽缶1につき六四六、一六二円、汽缶2につき四二二、一四八円と評価し、原田は汽缶1につき八〇五、二八〇円、汽缶2につき五二六、〇八〇円と評価したこと、一方、被告は独自の立場から該汽缶設備を中古品として処分可能と判断し、右通達別紙第8の2(2)イによって汽缶1、2の処分見積額を八〇七、七〇三円、五二七、六八五円と算出したこと、そして、被告は鑑定人の評価が異なる場合には各鑑定人の評価の平均値によるとした臨整二四号通達別紙Ⅰ8②、臨整二五号通達別紙第5の2に従い、右各鑑定評価額の算術平均した額(汽缶1は七二五、七二一円、汽缶2は四七四、一一四円)を鑑定評価額とし、これと被告の見積額との差額が見積額に対し三〇パーセント未満であったので、この場合には評価額(各鑑定評価額の算術平均したもの)をもって調定処分見積額とするとの臨整二五号通達別紙第6の1に従い、右評価額をもって汽缶1、2に対する減価補填交付金の算定に必要な処分見込価額と決定したこと、以上の事実が認められる。
右認定の事実によりすれば、被告の決定した汽缶1、2の各処分見込価額はいずれも中古品として評価したものというべきところ、原告は、右汽缶設備はその構造上屑(スクラップ)として処分するほかないものであったから、その処分見込価額はスクラップの値段をでない旨主張する。
しかし、≪証拠省略≫によると、原告は、昭和三七年三月二三日右汽缶1、2のほか節炭機、空気予熱機、給炭機(二機)、煙道、送風機(二機)、灰出装置、制御装置、梯子、ストーカー、煤吹装置、減圧機、コンベアー、汽缶チューブを一括し、中古品として、一、五〇〇、〇〇〇円で他に売却したこと、現に右汽缶設備を買受たけものはこれをボイラーとして使用していることが認められるから、原告の右主張は採用することができず、被告が右汽缶設備の処分見込価額を中古品としての評価額によって決定した点に違法はないといわなければならない。
そこで、次に、被告の決定した右処分見込価額が中古品の評価額として客観的に相当か否かについて検討する。
右処分見込価額は前示認定の方法をもって算出されたものであるところ、被告の見積額の算出根拠については単に臨整二五号通達別紙第8の2(2)イによるというのみで、なんら具体性がないので、右処分見込価額の当否は右浅田および原田の各鑑定が合理的であるか否かによって判断するほかないといわなければならない。
しかるところ、右両名の鑑定価額の算出根拠にかかる具体的な数式については、≪証拠省略≫によっても明らかではないが、証人浅沼龍雄の証言によれば、浅沼の鑑定価額は、汽缶1、2の取得価額とその耐用年数を基準にし、物理的、機能的、経済的観点から減価修正をして算出したものであることが、また、証人原田重一の証言によれば、原田の鑑定価額は、船舶の発動機、汽缶等の現実の使用可能期間を基礎として算出したものであることがそれぞれ認められ、その方法がかならずしも不合理とはいえないこと、右各鑑定人は汽缶1、2のほかにも種々の物件の処分見込価額について鑑定の委嘱を受け、鑑定しているが、その鑑定に不合理な点があると指摘されたことも窺われないこと等を併す考えると、右各鑑定価額に若干の差異が認められるとはいえ、その各鑑定が不合理なものということはできない。
してみると、被告が本件処分において右各鑑定価額の平均値をもって汽缶1、2の処分見込価額と決定したのも合理的なものとして是認すべきであるから、被告の決定した右処分見込価額は客観的に相当なものといわざるをえない。
なお、≪証拠省略≫によれば、被告の岡山地方局においては、塩業整備にかかる交付金の交付請求に関する説明会において、機械および装置の処分見込価額は撤去を前提として算定する旨の説明をしたことがあることが認められるが、撤去を前提としたからといって、その処分見込価額が当然にスクラップ値段となるものではないから、右の事実をもって被告の右処分見込価額の決定が違法であるとする根拠とはなしがたい。
(二) 買収施設について
原告が、その組合員から買収した別表二の(一)記載の製塩施設(本件買収施設)につき、同表記載の減価補填交付金(合計二一、四二九、二五〇円)を請求したのに対し、被告が同表記載のとおり三〇九、八二六円と決定したことは、当事者間に争いがなく、当事者間に争いのない事実と≪証拠省略≫によれば、原告はその会計帳簿に右買収施設の取得時期を昭和三四年三月末日として処理し、その決算書類および本件交付金請求書にも同様に記載されていた(この事実は当事者間に争いがない。)ので、被告は、右買収施設が基準日後廃止日までの間に取得されたものと認め、これに対する減価補填交付金の算定について令四条四項二号を適用したが、その際、右買収施設はすべて塩業関係者たる原告の組合員から取得したものであった(この点も当事者間に争いがない。)ので、その取得価額の妥当性につき、令四条四項二号にいう「取得価額が通常の価額を著しくこえている」か否かの認定基準を定めた臨整二四号通達別紙Ⅰ6(1)③に則って検討し、原告が右買収施設を従前より使用しながらこれに対する賃料等を支払った実績がなかったから、右買収施設に対する減価補填交付金の算定の前提となる取得価額としては処分見込価額をこええないものと認め、その減価補填交付金の額を零と認定したこと、しかし、右買収施設のうち宇野港土地株式会社から買収した別表二の(四)記載の製塩施設については、前所有者の宇野港土地株式会社に正規の簿記の原則により記帳されている帳簿があり、右製塩施設の帳簿価額が判明していたので、右買収が基準日前の総会において決議された分の履行としてなされたものという事情を考慮し、右通達の例外的措置として、基準日における右帳簿価額から廃止日までの法定償却額(公示四条参照)いっぱい償却したものとして算出した額をもって、廃止日における製塩施設の価額と認め、これに対する減価補填交付金を別表二の(四)記載のとおり三〇九、八二六円と認定し、原告の請求を右認定額の限度においてのみ認め、その余を否認して前記決定がなされたものであること、以上の事実が認められ、右認定に反する証拠はない。
そこでまず、本件買収施設に対する減価補填交付金の算定に令四条四項二号を適用したことの当否について検討する。
原告が昭和二七年中に塩の煎ごう工場を新設して以来製塩事業を行なっていたこと、その頃は、原告の組合員が各自被告の許可を受け、自己の企業として自己の塩田でかん水を製造し、原告が、そのかん水を買入れて煎ごうしていたこと、被告が昭和二八、九年頃従来の入浜式塩田を流下式塩田に転換させる方針をたて、そのため昭和三〇年初め頃、右転換工事およびこれに要する資金の借入、償還ならびに転換後の塩田の経営等をすべて塩業組合において行なうよう指導し、これによって従前採かんと煎ごうとを組合員と塩業組合とがそれぞれ分担していたのをすべて塩業組合が行なうように仕向けたことは、いずれも当事者間に争いがなく、≪証拠省略≫によれば、次の事実が認められる。すなわち、
原告は、被告の右指導に従い、入浜式塩田を流下式塩田に順次転換すると同時に組合において採かんと煎ごうをともに行なういわゆる組合経営の一本化を図る方針を採用し、その実施にあたっては、塩田については一部を除き借受けるが、組合員所有の採かん施設については原告において全面的に買収することとし、右方針に則った具体的計画書を作成して昭和三〇年五月二八日に開かれた原告の通常総会においてこれを採択したこと、これによって組合経営の一本化に関連して原告が行なう買収、補償および収益の分配等の基本となる塩田および諸施設の評価方法等が決定されたこと、次いで同年六月四日に開かれた入浜式塩田関係組合員協議会において、右計画書に基づいて同年七月一日以降はそのすべての入浜式塩田における経営を原告が行なう旨決議され、原告は同日以降その組合員からその採かん施設の引渡を受けて使用するに至ったこと、そして、同月五日の原告の役員会兼組合協議会(その実質は臨時総会に相当するものであった。)において買収物件の範囲およびその具体的評価基準が設定されたが、買収の対象となる採かん施設の数が非常に多く、そのために莫大な資金を要するので、第一次買収の対象となるものを、(1)組合が新設すべき設備を組合員の所有しているもので代用したもの、(2)昭和二七年一月一日以降新設、改造、補修されたもので、かつ、組合において利用価値のある設備で一件五〇、〇〇〇円または一ヘクタール当り二五、〇〇〇円以上のもの、(3)建設資金の借入残高が農林漁業資金、金融機関および組合にあるもの、(4)塩田内の共同設備、以上四個の標準のいずれかに該当するものと定められたこと、右協議会において同時に決議された組合経営の一本化および流下式転換工事の実施に関する原告とその組合員間の契約書の条項中には「乙(組合員を指す。)が最近取得した設備、建設資金の借入残額のある設備及塩田内の共同設備等は甲(原告を指す。)に於て買収する。其他の旧来よりある塩田内諸設備は当分の間無償で甲が使用するものとする。」との条項があること、次いで、同月七日に開かれた原告の役員会兼組合員協議会においては、別表二の(三)の物件を右の第一次買収要件に合致するものとし、前記基準により評価したうえ買収することを決定し、その議事録にその旨明記され、また、その頃原告の会計帳簿にもその旨記帳されたこと、しかるに、別表二の(一)の製塩施設(本件買収施設)については、原告の議事録にはもとより会計帳簿にも昭和三四年三月末日にその取得の記帳がなされる(昭和三四年三月末日にその取得の記帳がなされたとの点は当事者間に争いがない。)まで、買収した旨記載された事実がないこと、以上の事実が認められ、右認定を覆すに足りる証拠はない。
右事実関係からすれば、原告は、いわゆる組合経営の一本化の実施にあたり、その組合員からその所有する採わん施設を全面的に買収する方針をとったものの、買収対象となる採かん施設の数が非常に多く、一時にその全部を買収するには莫大な資金を要するところから、順次買収することとし、その第一次買収の対象たるべき要件を前記のとおり定め、これに合致した別表二の(三)の物件につきまづ買収し、それ以外の本件買収施設については将来買収することを前提としてその買収までの間原告において無償で借用するものとし、組合員の了解をえてこれを使用していたが、その後も本件買収施設については買収する旨の取決めがなされないまま、その取得の記帳がなされた昭和三四年三月末日に至ったものと推認するのが相当である。
≪証拠判断省略≫
そうとすれば、原告において本件買収施設を取得した時期は、これを原告の会計帳簿に記帳した昭和三四年三月末日と認めるほかないから、本件買収施設に対する減価補填交付金の算定に被告が令四条四項二号を適用したことは正当といわなければならない。
次に、本件買収施設の取得価格の妥当性の判定につき、臨整二四号通達別紙Ⅰ6(1)③を適用したことの当否について考察する。
令四条四項二号は、基準日後廃止日までの間に取得された製塩施設の廃止日における価額については当該製塩施設の取得価額(当該取得価額が通常の価額を著しくこえていると認められる場合には、当該取得価額からそのこえる金額を控除した金額)からその取得の日後廃止日までの期間に対応する償却額を控除した金額とする旨規定し、前示答申に基づき制定された法の趣旨、目的に則り、妥当な未回収投下資本額の回収という観点から、その取得金額が通常の価額を著しくこえていると認められる場合には、その取得金額によらず、当該取得金額からそのこえる金額を控除した金額をもって当該製塩施設の廃止日における価額を算定するものとしているところ、≪証拠省略≫によれば、臨整二四号通達別紙Ⅰ6(1)③は、右の取得価額が通常の価額を著しくこえているか否かを判定する具体的基準として「基準日以降に取得した固定資産で塩業関係者から取得したものは、処分見込価額と取得の日から廃止の日までの賃借料相当額の合計額をこえる金額は認めない。」と定めていることが認められ、本件において被告が本件買収施設のうち宇野港土地株式会社から買収した別表二の(四)記載の物件以外の製塩施設の取得価額が通常の価額を著しくこえているか否かの判定にあたり右通達を適用したことはすでに認定したとおりである。
右通達の基準は組合が基準日後その塩業関係者から取得した固定資産で従前より組合と当該塩業関係者との間で貸借関係のあったものに対し適用されるものであることは、同通達の内容から明らかなところ、従前より貸借関係のある固定資産については、廃止を前提とする塩業組合としては、特段の事情のないかぎり、従前の貸借関係をそのまま継続すれば足り、さらに進んでその所有権まで取得する必要性は認めがたいところであるから、適正な未回収投下資本の回収という見地から減価補填交付金の額を算定しようとする法および令の趣旨よりすれば、そのような場合の取得価額の妥当性の限界を当該固定資産が当該廃止業者に与える現実の効用におき、その具体的判定方法として、その取得の日から廃止日までの具体的な賃料相当額とその処分見込額の合計額を最高限度とすることは合理的なものとして是認すべきであり、したがって、これと同趣旨の右通達の基準は一応合理性のあるものといわなければならない。
しかるところ、本件買収施設はすべて原告が従前より塩業関係者たるその組合員から借受け使用していたものを基準日後の昭和三四年三月末日に買取ったものであり、かつ、原告は右買収施設を無償で借受けたものであることは前判示のとおりであるから、右通達の基準によると、右買収施設に対する減価補填交付金の算定の前提となる取得価額としては、処分見込価額をこえる金額は認めえないこととなる。
しかし、原告が本件買収施設を無償で借用していたのは、前示認定のとおり右施設を原告において買収することが当然の前提とされ、その買収までの間の便宜的措置としてとられたものにすぎず、しかも、≪証拠省略≫によれば、原告は、組合経営の一本化に賛成しない組合員もあったため、組合員所有の採かん施設についても当初は原告において組合員から賃借する方針であったところ、被告の岡山地方局からこれらにつき現物出資等の方法をもって組合が取得し組合経営の一本化の徹底を図るようにとの強力な指導があったこと等により、その全面的買収の方針に踏切ったものであることが認められるので、本件買収施設について将来買収することが予定されていなければその無償借用ということはありうべきことではなかったことは容易に推認することができ、かつ、少くとも被告の岡山地方局において右のような事情について充分了知していたことも≪証拠省略≫から明らかなところであるから、かような事情の認められる本件について右通達の基準を形式的に適用し、原告が本件買収施設について無償で借用していたとの故をもって、その減価補填交付金の算定の前提となる取得価額としてその処分見込価額をこえる金額は認めえないとすることは、令四条四項二号の取得価額の妥当性の判定としては形式的すぎ、正当なものということはできない。
ところで、本件買収施設のうち宇野港土地株式会社から買収した別表二の(四)記載の製塩施設に対する減価補填交付金の額が三〇九、八二六円であることについては、原告の明らかに争わないところであるから、その額をもって正当なものとみなすべきである。
してみると、本件処分には、本件買収施設のうち右の別表二の記載の物件を除くその余の製塩施設につき右通達の基準を形式的に適用し、これに対する減価補填交付金の額を零として原告の請求を否認した点に違法があるといわなければならない。
(三) 組合員が支出した塩田堤防施設の保存、改良費について
原告の組合員小橋米治が昭和二六、二七年に亀浜塩田の堤防施設の災害復旧費を、同宮原虎之烝が昭和二七年に久々井浜塩田の堤防施設の改良工事費をそれぞれ支出したこと、原告が右各支出につき別表三記載のとおり減価補填交付金を請求したのに対し、被告が本件処分においてこれを否認したことは、当事者間に争いがない。
そこで、右災害復旧費および改良工事費を否認したことの当否について検討する。
1 亀浜塩田堤防についての災害復旧費について
被告が原告の右災害復旧費に対する減価補填交付金の請求を否認した理由が右支出を収益支出と認めたことによるものであることは当事者間に争いがなく、≪証拠省略≫によれば、被告が右支出を資本支出と認めず、収益支出と認めた理由は次のとおりであることが認められる。すなわち、被告は、固定資産に対する工事費等の支出についての減価補填交付金を算定するについては、その支出につき帳簿処理がなされていれば、それによりその支出が資本支出か収益支出かを判断する建前をとっていたが、右災害復旧費についてはこれを処理した帳簿が存在しなかったので、旧法人税法施行規則一〇条の二の基準を採用した臨整二四号通達Ⅰ6(4)を適用し、右支出を収益支出と認めたものであること、以上の事実が認められる。そして、≪証拠省略≫によれば、右通達Ⅰ6(4)は「固定資産の耐用年数を延長し、またはその価額を増加するもの」に限り、修理加算(追加投資)として減価補填交付金の対象たりうるものとしていることが認められるところ、右通達の基準は、旧法人税法施行規則一〇条の二(現行法人税法施行令一三二条と同旨)が「当該支出金額のうち、その支出に因り、当該固定資産の取得の時においてこれについて通常の管理又は修理をなす場合に予測される当該固定資産の使用可能期間を延長せしめる部分に対応する金額」(一号)および「当該支出金額のうち、その支出に因り、当該固定資産の取得の時においてこれについて通常の管理又は修理をなす場合に予測される支出をなした時における当該固定資産の価額を増加せしめる部分に対応する金額」(二号)を資本支出として法人税の所得の計算上損金に算入しないものとしていることにならったものであることは明らかであるが、右通達および施行規則の処理基準は、簿記、会計上の資本支出と収益支出との区別に関する一般通念に従ったものであって、もとより正当であるから、右通達が同基準をもってこれに適合したもののみを修理加算(追加投資)としてその資産性を認め、これに対し減価補填交付金を交付するものとしたのは合理的であるといわなければならない。
しかるところ、本件災害復旧工事費については、これを処理した帳簿が交付金算定当時現存しなかったことは原告の自認するところであるから、これに対する原告の減価補填交付金の算定にあたり、被告が右通達の基準を適用したことは正当であり、また、≪証拠省略≫によれば、右亀浜塩田堤防の工事はいずれも単なる原型復旧工事であって、いわゆる改良工事でなかったことが認められるから、被告が右基準に照らし、その工事費用を収益支出と認定し、これに対する原告の減価補填交付金請求を否認したのは正当であるというべきである。
なお、原告は被告総裁通達の塩生産調査手続が三〇、〇〇〇円をこえる災害復旧費は塩収納価額に算入しないとし、また、当時の法人税法施行細則七条(昭和二六年大蔵省令第四九号による改正後のもの)が耐用年数一年未満もしくは取得価額一〇、〇〇〇円以下のものは固定資産として計上することを要しないとしているから、右基準をこえる本件災害復旧費はいずれも資本支出とみるべきである旨主張する。
なるほど、≪証拠省略≫によれば、被告において災害復旧費を非原価項目として塩の生産費に算入しない取扱いとした(被告総裁昭和三三年三月三一日付総裁達(業)第一六〇号)が、塩脳部長から各地方局長あての昭和三三年三月三一日付「塩生産費調査手続の全部改正について通達」と題する塩(業)第一、五七八号をもって、火災、風水害、盗難、争議等偶発的事情による損失の復旧のために要する費用で、一件三〇、〇〇〇円以下の軽微なものについては塩生産原価に算入することを認めていることが認められるが、右通達自体から明らかなように、これは右の費用で一件三〇、〇〇〇円以下のものについては塩生産原価に算入することを許したにすぎず、右金額をこえるものを資本支出とする取扱いにする趣旨のものでもないし、また、それを前提とするものでもないから、右通達を根拠として本件災害復旧費を資本支出とみるべきであるとの原告の主張は採用できず、また、右法人税法施行細則七条は、固定資産として計上することを要しない資産の範囲を定めたものにすぎないから、この規定を根拠として本件災害復旧費を資本支出とみるべきであるとの原告の主張も、同様に採用できない。
さらに、原告は右復旧工事が補助金の交付を受けてなされたものであるから、これに対する費用の支出は臨整二四号通達Ⅰ6(2)、臨時塩業整備本部長から各地方局長あての昭和三四年一〇月五日付「固定資産の耐用年数について(回答)」と題する臨整(一)第一四五号の二通達、同じく昭和三四年一二月三日付「補助金を受けた製塩施設の価額の算定について(通達)」と題する臨整(一)第二五七号通達によって、三五年の耐用年数を有する無形固定資産として取扱うべきである旨主張する。
しかし、復旧工事が補助金の交付を受けてなされたからといって、これに対する支出が当然に資本支出となるものではなく、また、≪証拠省略≫によれば、原告主張の右各通達は、いずれも当該支出が資本支出であることを前提としたうえでその取扱いにつき発せられたものであって、いかなる支出が資本支出であるかを示したものでないことは明らかであるから、この点に関する原告の右主張も採用できない。
してみれば、被告が亀浜塩田堤防についての右災害復旧費を収益支出と認定し、これに対する原告の減価補填交付金請求を否認した点に違法はないといわなければならない。
2 久々井浜塩田堤防についての改良費について
被告が原告の右改良費に対する減価補填交付金の請求を否認した理由が右堤防についての原告の利用関係を否定したことによるものであることは当事者間に争いがないところ、原告がそこでの製塩廃止の際(昭和三四年一一月一三日)右堤防をその所有者たる宮原虎之烝から借入れて製造の用に供していたとの事実は、≪証拠省略≫によってもこれを認めるに足りず、他にこれを認めうべき証拠はないから、被告が右堤防についての原告の利用関係を否定したのは正当というべきである。
してみれば、被告が久々井浜塩田堤防についての右改良費に対する原告の減価補填交付金請求を否認した点に違法はないといわなければならない。
(四) 入川浚渫費について
原告が昭和三〇年頃久々井部落に一〇〇、〇〇〇円を寄附し、これを仕訳上設備費として計上したこと、久々井浜塩田の廃止日現在におけるその未償却残高が七三、七九五円であったこと、原告がこれにつき減価補填交付金を請求したのに対し、被告が本件処分においてこれを否認したことは、当事者間に争いがなく、≪証拠省略≫を総合すると、被告は、原告の久々井部落に対する右支出を資本支出と認めず、その結果、これに対する原告の減価補填交付金請求を否認する一方、原告において右支出を寄附金として処理せず、仕訳上設備費(無形固定資産)として計上した(この点は当事者間に争いがない)結果、帳簿上欠損としても計上されていなかったので、欠損補填交付金の対象としても認めえないものとし、結局、右支出については交付金を認めなかったこと、以上の事実が認められ、右認定に反する証拠はない。
ところで、右支出が久々井部落の入川浚渫工事に関連してなされた寄附金であることは≪証拠省略≫よりこれを認めることができるが、さらに進んで右寄附金が原告の負担に帰すべき入川の浚渫費として支払われたものであるとの事実についてはこれを認めるに足りる証拠がないから、右支出は本来寄附金として処理すべきであり、したがって、原告がこれを仕訳上設備費として計上したのは会計処理を誤ったものといわなければならない。
そうとすれば、被告が右支出を寄附金と認め、資本支出とは認められないとして、これに対する原告の減価補填交付金請求を否認したこと自体には誤りがあるということもできないといわなければならない(なお、付言すると、被告は、固定資産に対する工事費等の支出についての減価補填交付金の算定にあたり、当該支出が資本支出であるか収益支出であるかの判定については、当該支出につき帳簿処理がなされている場合にはそれに従う建前をとっていたことは前示(第二の一(三))認定のとおりであるが、右支出は右認定のとおり単なる寄附金であって、固定資産に対する工事費等の支出ではないから、右支出につき被告がこれを資本支出でないとして、これに対する原告の減価補填交付金請求を否認したからといって、被告の右建前と異った取扱いをしたものということはできない。)。
しかし、≪証拠省略≫によれば、原告の経営は昭和二八年四月一日以降欠損続きで、右寄附金を支出した昭和三〇年度も一二、一五八、四七四円の欠損があり、その後昭和三二、三三年度に若干の利益を生じたとはいうものの、累積赤字を解消するまでには至らず、廃止日には多額の欠損があったことが認められるので、右支出を寄附金として会計処理すれば、当然欠損として繰越されることは明らかであるところ、≪証拠省略≫によれば、原告が右支出を寄附金として処理していれば、被告においても右支出によって生じた欠損を欠損補填交付金の対象として認めるものであったことが認められるから、交付金の算定にあたっては右支出を欠損補填交付金の対象として取扱い、法定の限度額(基準日欠損額)の範囲内でこれを是認すべきである。
右につき、被告は、欠損補填交付金は帳簿上欠損として計上されたものについてのみ認められるものであるから、そのような帳簿処理のなされていない右寄付金については、欠損補填交付金を認めることはできない旨主張する。
しかし、減価補填交付金も欠損補填交付金も、ともに未回収投下資本額の回収という趣旨に基づくもので、単に立法技術上の要請から法、令において右のような二つの項目の交付金に区別され規定されたものにすぎないものであることは前示のとおりであるから、廃止業者においてその支出の仕訳を誤り、本件のように寄附金処理すべきものを設備費(無形固定資産)として計上したような場合には、正当な会計処理基準による修正をしたところに従い、これを欠損補填交付金の対象として認めるのが相当であり、被告主張のように単に帳簿上欠損として計上されていないとの一事をもって、欠損補填交付金の対象たりえないものとするのは、右法、令の趣旨に反するものといわなければならない。
してみれば、右寄附金につき、被告が減価補填交付金のみならず、欠損補填交付金としても否認し、これに対する交付金を交付しなかったのは違法であるといわなければならない。
二 退職金支払交付金に関するもの
原告が、その従業員檜垣浅一に対する退職金につき、令五条に基づき別表四記載のとおりその勤続月数を二〇四・三か月として四三六、四〇三円の退職金支払交付金を請求したのに対し、被告が、本件処分においてその勤続月数を七四・五か月と認定し、同表記載のとおりその退職金支払交付金を一五九、一三八円と決定したことは、当事者間に争いがなく、≪証拠省略≫によれば、被告は、檜垣浅一が原告に雇傭されていた期間を、同人が波止浜塩業組合から原告に移った昭和二九年一月二六日から前潟浜等塩田の廃止日(昭和三五年四月九日)までの七四・五か月と認定し、同人に対する原告の退職金支払交付金請求を一部否認したものであることが認められるところ、同人が原告に雇傭されて勤務していた期間が昭和二九年一月二六日から廃止日までであったことは原告の自認するところであるから、被告が同人に対する退職金支払交付金の算定にあたり、令五条にいう勤続月数七四・五か月と認定し、その退職金支払交付金を一五九、一三八円と決定したのは正当であるといわなければならない。
原告は、檜垣浅一が波止浜塩業組合から原告に移ったのは、本人の都合によるものではなく、雇主側の都合によるものであったから、同人の勤続月数は公示六条の規定により、その転属の前後を通算すべきである旨主張する。
なるほど≪証拠省略≫によれば、檜垣浅一は昭和一八年四月一日以来波止浜塩業組合に勤務していたこと、原告が流下式塩田に転換するにあたり、波止浜塩業組合に対し流下式採かんについての指導員の派遣を要請したところ、同組合においてその従業員檜垣浅一を原告に転属させた結果、同人は昭和二九年一月二六日から右廃止日まで原告に雇傭され、勤務するに至ったものであって、右転属が本人の都合によるものでなく、雇主側の都合によるものであったことが認められるが、≪証拠省略≫によって認められる臨時塩業整備本部長から各地方局長あての昭和三四年八月六日付「退職塩業労務者の勤続月数について」と題する臨整(一)第八三号の二通達および≪証拠省略≫を総合すると、勤続月数について定めた公示六条一項後段(本件においては同項後段以外は問題にならない。)の「塩専売法(昭和二四年法律第一一二号)第八条の規定による製造の引継または流下式転換その他の製造の方法の転換に伴い雇用関係が承継されたときは、その承継前の勤続月数を通算するものとする。」との規定は、当時、製造の引継または流下式転換、真空式等の煎ごう方法の転換等に際しては、その採かん、煎ごう作業の管理主体に変更があっても、その従業員にはなんらの変化もなく、従前どおり労務の提供をしているのが塩業の実態であり、かつ、管理主体に変更があっても、従業員は従前の雇主から退職金の支給等を受けなかったのが通例であったため、こうした事情を考慮して特に右のような場合には、その退職金支払交付金の算定基礎となる勤続月額につき、従前の勤続月数の通算を図るために設けられたものであることが認められ、同規定の趣旨および文言よりすれば、同規定が事業の承継による経営主体の変更に伴って雇傭関係の引継がなされた場合の規定であることは明らかであり、これとは全く異なる事情から原告に雇傭されるに至った檜垣浅一については適用の余地がないものといわなければならないから、原告の右主張は採用できない。
また、原告は、右転属当時予想もしなかった企業の廃止という事態が原告および波止浜塩業組合に生じ、檜垣の復帰すべき職場がなくなった以上、同人の波止浜塩業組合における勤続月数を原告における勤続年数に通算するのが相当である旨主張するが、そのように解すべき根拠は全くないから、右主張も採用のかぎりでない。
三 塩田転用交付金に関するもの
被告が、本件処分において、原告に対する塩田転用交付金を原告の塩田の実測面積に基づき六〇、五八一、六二五円と決定したこと、右決定が交付金算定の基礎となる塩田の面積にいわゆる釜屋敷上にあるかん水溜等の附属施設の敷地面積(合計八、六七九、六四七・六平方メートル)を含めて計算しなかったことは当事者間に争いがない。
そこで、被告が右のように釜屋敷上にあるかん水溜等の附属施設の敷地面積を含めて計算しなかったことの当否について検討する。
≪証拠省略≫によれば、被告は、農地転用上、右釜屋敷については盛土の必要のないものと認め、これを令六条二項にいう堤防と判断し、臨整二四号通達別紙Ⅲ2①により、右釜屋敷上にあるかん水溜等の附属施設の敷地を原告に対する塩田転用交付金の算定の基礎となる塩田の面積に加えなかったことが認められる。
ところで、≪証拠省略≫によれば、塩田転用交付金に関する法三条および令六条の規定は、前示塩業審議会の「塩田土地については、これを他の用途に転用するものとして、その費用の一部に相当する額を補償する。」との答申に基づくものであり、推定所得にあてる交付金に関する規定(令三条一項)とあいまって、塩田製塩業者に製塩業廃止後の生活基盤を与えることを目的とするものであるが、答申および法、令において、このような塩田転用交付金を交付するとしたのは、塩田土地が塩田製塩業者の唯一の生活基盤であり、塩田製塩業者が製塩業廃止後転業するにあたっては、塩田土地を他の用途、とりわけ農地に転用するのが通常であると考えられたので、そのための盛土、整地等の農地転用費につきその一部に相当する交付金を交付し、塩田製塩業者の転業を助成して廃止後の生活基盤を与える必要があったことによるものであったこと、そこで、右塩田転用交付金の算定基準額を定めるにあたっては、塩田土地を農地に転用することを目的として算定することとし、当時塩田の殆んどを占めていた流下式塩田につき、流下盤その他の設備を撤去し、その上に農地として必要な高さ(四〇センチメートル)までの土盛りを行ない、用水源、水路、農道等の施設を設け、さらに整地、開田まで完了するものとしての費用として、一ヘクタール当り一、三〇〇、〇〇〇円を見積り、右費用のうち交付すべき交付金の額としては、右交付金が塩田製塩業者の転業についての助成的性格を有することに鑑み、その三分の二たる八六七、〇〇〇円とし、その旨令六条一項に規定したこと、そして、同条二項において、その交付金の算定の対象たるべき塩田の範囲につき、かん水の製造の廃止の際に当該製造の用に供されている土地のうち、かん水採取の目的でさん砂されている土地(入浜式塩田の場合)および流下盤の敷地(流下式塩田の場合)ならびに当該さん砂されている土地および流下盤に近接して設けられたこれらの附属施設の敷地を塩田面積としたが、堤防および玉土手は農地に転用するにしても盛土をする必要のないものであるから、これらを交付金算定の対象たるべき塩田の範囲から除外したこと、以上の事実が認められ、右認定に反する証拠はない。
しかるところ、≪証拠省略≫を綜合すると、右釜屋敷はかん水採取の目的でさん砂されている土地または流下盤の敷地より約一メートル高い位置にあり、いわゆる提防と接して設けられていること、これを農地に転用するとしても釜屋敷自体としてはそのための盛土を行なう必要がないこと、右釜屋敷はその位置および構造上、提防の一部としての機能をも有していたので、災害復旧事業補助金の交付にあたっては、いわゆる堤防と同様に塩田防災施設として取扱われていたことが認められるので、前示法三条および令六条の立法趣旨よりすれば、令六条二項にいう堤防の解釈としては、右釜屋敷をもこれに含めて解するのが相当である。そして、令六条二項が堤防および玉土手を除くと定めたのは、同条項の文言より推して、提防および玉土手の上にある附属施設のすべてを一律に除外することを当然の前提としているものと解されるから、被告が右釜屋敷上にあるかん水溜等の附属施設の敷地を原告に対する塩田転用交付金の算定の基礎となる塩田の面積に加えなかった点に違法があるということはできない。
なお、原告は、右釜屋敷の土地台帳の地目が塩田として記載されていること、右釜屋敷上の施設に対する災害復旧事業等の補助金の支給につき、被告が従来、堤防に対する高率の補助金率によらず、塩田施設に対する一般の補助金率によってきたことをもって、右釜屋敷は令六条二項の堤防にはあたらないと主張するが、令六条は、当該土地の公簿上の地目の表示の如何もしくは塩製造許可の対象となっている塩田面積の如何にかかわらず、塩田製塩業者が廃止日現在において製造事業の用に供している塩田に対して交付金を交付するとの建前のもとに(法三条一項参照)、いかなる範囲の塩田にいかなる金額を交付すべきかという見地から規定されたものであるから、右釜屋敷の土地台帳の地目が塩田と記載されているからといって、このことをもって同条二項にいう堤防か否かの解釈の基準とすることはできないものといわなければならず、また、補助金率の取扱いについては、前示認定のとおり、釜屋敷自体については堤防と同様の取扱いをしているのであって、釜屋敷上の施設について原告主張のような取扱いがなされたとしても、これをもって釜屋敷に関する被告の前記措置が不当であるとはいえないから、原告の右主張は採用することができない。
さらに、原告は、右釜屋敷上にあるかん水溜の底面はほぼ塩田と同じ高さであるから、その部分の農地転用には盛土の必要がある旨主張するが、右釜屋敷が令六条二項にいう堤防に該当するものであることは前示のとおりであり、また、同条項は堤防上の附属施設のすべてを一律に除外することを当然の前提としていると解される以上、たとえかん水溜が原告主張のような構造のものであっても、右かん水溜の敷地を交付金算定の対象たるべき塩田の範囲に含めるべきではないから、原告の右主張も採用することはできない。
四 清算費用交付金に関するもの
原告がその清算費用につき、請求原因二(四)掲記の表の原告請求額欄記載のとおりの清算費用交付金(ただし、括弧内のものを除く。合計六、七四八、〇〇〇円)を請求したのに対し、被告が本件処分において、同表の被告決定額欄記載のとおり、二、五三〇、九一七円と決定したことは当事者間に争いがなく、≪証拠省略≫によれば、被告は、原告が請求原因一掲記の表記載のとおり、工場、新浜塩田、久々井浜塩田、前潟浜等塩田と順次四回に分けてその製造場における製造を廃止したので、先行した工場、新浜塩田、久々井浜塩田における製造の廃止には解散が伴わず、最後になされた前潟浜等塩田における製造の廃止に解散が伴なったものと認め、令七条一項二号に定める原告の清算費用交付金の限度額を前潟浜等塩田における製造の廃止による塩業整理交付金(ただし、清算費用交付金を除く。)として被告の認定した一三〇、二七〇、七二三円の二パーセントたる二、六〇五、四一四円としたこと、そして、原告の清算費用交付金の請求額につき、清算費用交付金の算定基準を定めた公示一二条およびその運用を定めた臨整二四号通達別紙Ⅴ2に基づき検討し、原告請求の清算人報酬費については、原告の製造許可高が一万トン以上であったので、右通達別紙Ⅴ2①によりその請求額(六三〇、〇〇〇円)の全額を認容したが、原告請求の清算事務従事者の給与については、同通達別紙Ⅴ2②が清算事務従事者の給与の限度額を右清算人報酬費の二〇〇パーセントとしているので、その請求額(一、九三八、〇〇〇円)のうち、その限度額たる一、二六〇、〇〇〇円を認め、その余を否認し、原告請求の清算事務費については、その請求額(三八〇、〇〇〇円)が右清算人報酬費(六三〇、〇〇〇円)および清算事務従事者の給与(一、二六〇、〇〇〇円)の合計額一、八九〇、〇〇〇円の八〇パーセントたる一、五一二、〇〇〇円以内であったので、右通達別紙Ⅴ2③によりその請求額の全額を認容したが、原告請求の施設保全管理費用については、右通達別紙Ⅴ2④により前潟浜等塩田の製塩施設の減価補填交付金相当額の〇・五パーセントが限度額であるので、その請求額(三、六〇〇、〇〇〇円)のうち、その限度額たる二六〇、九一七円を認め、その余を否認し、原告請求の「その他清算のため特に必要と認められる費用」については、それが借入金に対する廃止後の支払利息にかかるものであったので、その請求額(二〇〇、〇〇〇円)の全額を否認したこと、そして、右認容額の合計額(二、五三〇、九一七円)が原告に対する清算費用交付金の限度額(二、六〇五、四一四円)以内にあったので、被告は右認容額をもって決定額としたこと、以上の事実が認められる。
原告は、被告が原告の清算費用交付金の限度額について前潟浜等塩田に対する塩業整理交付金(ただし、清算費用を除く。)の額だけを基礎として算定したのは法、令の解釈を誤ったものである旨主張するので、まずこの点について検討する。
令三条二号は、前示塩業審議会の「清算のため特別の費用を要すると認められる場合においては、その一部に相当する額を補償する」との答申を受け、「法人である廃止業者でその製造の廃止に伴って解散するものについては、その清算のための費用」を交付すると規定し、製造の廃止により解散する法人に限って清算費用交付金を交付するとしているが、塩業整理交付金の交付につき法二条一項は、塩専売法が塩またはかん水の製造、製造の廃止の許可は製造場ごとにしなければならないとしている(同法六条、一二条参照)ところから、塩業整理交付金の交付にあたっても、塩専売法一二条一項の許可を申請した同項の製造者で当該許可を受けて公社の指定する日までに塩またはかん水の製造を廃止したものを廃止業者とし、これに塩業整理交付金を交付するものとし、各製造場ごとに廃止の許可申請を認めて、その廃止ごとに塩業整理交付金を交付する建前をとっているのであるから、清算費用交付金に関する右令三条二号の規定は各製造場における製造の廃止のうち、解散に結びつくものについてのみ清算費用交付金を交付する趣旨と解するのが相当である。
しかるところ、原告が請求原因一記載のとおりの経過でその工場、各塩田における製造の廃止を各別に申請し、その許可を受けて廃止し、昭和三五年五月三〇日に解散したことは当事者間に争いのないところであるから、右各製造場における廃止のうち、最後になされた前潟浜等塩田における製造の廃止により原告が解散するに至ったものであることは明らかである。してみれば、被告が令七条一項二号にいう原告の清算費用交付金の限度額について、前潟浜等塩田に対する塩業整理交付金(ただし、清算費用を除く。)の額のみを基礎として算定した点に誤りはないといわなければならない。
原告は、右の点につき、その昭和三四年一〇月二二日の臨時総会において昭和三五年三月末日までにその工場および各塩田の全部を順次廃止して解散することを決議し、そのすべての工場および塩田における製造の廃止を右決議どおり一連の事項として実行し、これに伴なって解散したものであるから、原告の清算費用交付金の限度額は、その工場、新浜塩田、久々井浜塩田および前潟浜等塩田の交付金(ただし、清算費用を除く。)の額を基礎として算定すべきである旨主張するが、前示のとおり法が各製造場における製造の廃止ごとに塩業整理交付金を交付する建前をとっている以上、その一項目にすぎない清算費用交付金に限り、原告主張のような主観的意図を考慮して各製造場における製造の廃止を一体のものと観念して清算費用交付金を算定することは合理的ではなく、原告の右主張は採用できない。
ところで、清算費用交付金に関するその余の原告の主張は、右主張が容認されることを前提としてのものであるから、右のとおりその主張が理由のないものである以上、その点についての判断は不要というべきである。
そうとすれば、被告が原告の清算費用交付金につき、本件処分において、請求原因二(四)掲記の表記載のとおり二、五三〇、九一七円と決定した点に違法はないといわなければならない。
五 欠損補填交付金に関するもの
原告がその欠損補填交付金として法定限度額(基準日欠損額)たる三八、〇一九、一九六円を請求したのに対し、被告が本件処分において、別表五記載のとおり、工場廃止日(昭和三四年一〇月一二日)現在の欠損額のうち二二、九九七、四八三円および工場廃止後全塩田廃止日(昭和三五年四月九日)までの欠損額のうち八、七六〇、六六九円を否認し、原告に対する欠損補填交付金の額を合計二六、〇八九、〇四〇円と決定(ただし、右金額は日本専売公社総裁に対する異議申立てにより当初決定額二四、六二三、六〇三円に一、四六五、四三七円が追加されたものである。)したことは当事者間に争いがない。
原告は、右欠損否認額のうち、支払塩田賃借料、返戻損失分担金、施設除却費ならびに買収施設の減価償却費、支払利息、支払退職金の各損金を否認したのは違法であると主張するので、以下この点について検討する。
(一) 塩田賃借料の支払による損金について
原告が昭和三四、三五年度中にその組合員に対して支払った塩田賃借料合計一一、四七六、九八四円(昭和三四年度分一一、二八〇、三五一円、昭和三五年度分一九六、六三三円)のうち、一ヘクタール当り一九二、〇〇〇円として計算した限度をこえる一、六三〇、四八二円(工場廃止日までの否認額一、三五二、九五〇円、工場廃止後全塩田廃止日までの否認額二七七、五三二円)を、被告が本件処分において否認したことは当事者間に争いがなく、≪証拠省略≫によれば、被告が右金額を否誤した理由は次のとおりであることが認められる。
すなわち、製塩業界において、一般に塩田賃借料といわれているものは、塩田土地の使用、収益に対する対価としての性質のみならず、利益配分あるいは組合員の生活保障といった要素を多分に含んでおり、これを全国的にみた場合、各製塩業組合の経営状態、支払能力等により全くまちまちであったこと、そこで、被告としては、かような利益配分あるいは生活保障的要素を含む塩田賃借料なるものの支払によって生じた欠損の金額につき交付金をもって補填することは、やむをえない理由により発生したと認められる欠損額についてのみ欠損補填交付金を交付するとした法、令の趣旨に反するとの立場から、昭和三三年中における全国の平均塩田賃借料たる一ヘクタール当り一九二、〇〇〇円(昭和三三年中における全国の平均塩田賃借料が一ヘクタール当り一九二、〇〇〇円であることは当事者間に争いがない。)の限度において塩田使用の対価としての経費と認めるとの基準を設定し、全国一律に右基準をもってその交付金を算定したこと、そして、原告が昭和三四、三五年度中にその組合員に対し支払った塩田賃借料は右基準の限度額をこえる一ヘクタール当り約二〇〇、〇〇〇円であったので、その限度額をこえる合計額たる一、六三〇、四八四円を否認したものであること、以上の事実を認めることができる。
ところで、欠損補填交付金は減価補填交付金とともに未回収投下資本の回収の原則に基づくものであるが、前示のとおり、法、令は、企業において生じたすべての欠損を補填する趣旨においてこれを認めたものではなく、やむをえない理由により発生した欠損額についてその補填のための交付金を交付するとしたものと解すべきであるから、被告が右のような利益分配あるいは生活保障的要素を含む塩田賃借料なるものにつき、純粋に塩田使用の対価として経費と認めうる額の基準限度額を全国の平均塩田賃借料とすることは、不合理なものとはいえず、また、令七条一項三号が欠損補填交付金の額の限度を基準日におけるその廃止にかかる塩またはかん水の製造事業についての欠損金額としていることに鑑みれば、その基準日の属する年の昭和三三年(令四条四項一号、同七条一項三号参照)中における全国の平均塩田賃借料をもって、その基準としたことも相当といわなければならない。
しかるところ、原告が昭和三四、三五年度中にその組合員に対し支払った塩田賃借料が一ヘクタール当り約二〇〇、〇〇〇円であったことは当事者間に争いがなく、≪証拠省略≫によれば、原告がその組合員に対して支払った塩田賃借料なるものは、塩田補償料とも称され、その額は他の同業組合における事例や組合員の生活の必要、当該塩田から採かんされる採かん量、組合の経営状態等を総合勘案して定められたもので、純粋に塩田使用の対価たる性質のみを有するものではなく、利益配分あるいは組合員の生活保障的要素をも含むものであったことが認められるから、被告が原告の支払った右塩田賃借料につき、前記基準を適用し、これをこえる部分を否認したことは正当なものといわなければならない。そして、原告が昭和三四、三五年度中にその組合員に対して支払った塩田賃借料のうち、右基準限度をこえる金額が一、六三〇、四八二円であることは弁論の全趣旨より明らかであるから、被告がこれを否認した点に違法はないといわなければならない。
原告は、昭和三四、三五年度にその組合員に対して支払った塩田賃借料が全国の平均額をわずかにこえているにしても、昭和三三年度中に支払った塩田賃借料が右平均額よりはるかに少ないから、これを通算すれば、決して過大な支払をしたものとはいえない旨主張するが、右全国平均額は数年度にわたる塩田賃借料の全国平均値を求めたものではなく、昭和三三年中のものに限って算出されたものであり(昭和三三年中のものに限って算出したことの合理性は前示のとおりである。)、かつ、被告はこれを一律に各年度、各企業ごとに適用したものであって、その取扱いに不合理はないから、原告の右主張は採用できない。
また、原告は、塩収納価額は全製塩業者の塩の総生産費の平均をもって決定されていたのであるから、公示一三条にいう「止むを得ない」欠損かどうかの基準を総生産費との対比から定めるならともかく、単に採かん費のなかの一費用にすぎない塩田賃借料のみを摘出し、その製塩業者の平均をもって律するのは不合理である旨主張するが、前示のとおり、製塩業界において一般に塩田賃借料といわれているものは、純粋に塩田使用の対価としてのほか、利益配分あるいは組合員の生活保障的要素をも含んでいたため、その支払によって生じた欠損の全額を交付金という国の負担において解消させるにあたっては、そのうち純粋に塩田使用の対価として認めうる基準を設定する必要があるが故に、被告において、その基準として昭和三三年中における全国の平均塩田賃借料を採用したにすぎないのであるから、原告の右批判はあたらない。したがって、この点についての原告の主張も採用のかぎりではない。
(二) 損失分担金返戻による損金について
原告がその昭和三二年度の決算において未収入金として計上したその組合員に対する損失分担金六、五六七、三八二円を昭和三四年度の仮決算において営業外費用の名目をもって損金処理したのを、被告が本件処分において否認したことは当事者間に争いがなく、≪証拠省略≫によれば、被告は、原告が未だその累計欠損の解消していない昭和三四年度においてその組合員に対して有する右損失分担金償権をなんらの理由もなく放棄し、これを営業外費用として損金処理したのは、過大分配ないしは放漫経営によるものであり、これによって増大した欠損は、欠損補填交付金の算定上、やむをえない理由によって生じたものとは認め難いと判断し、原告の右会計処理を否認したものであることが認められ、右認定に反する証拠はない。
しかるところ、≪証拠省略≫を総合すると、右損失分担金の設定およびその損金処理の経緯は次のとおりであることが認められる。すなわち、原告は、金融機関から融資を受けて設備投資をしていたが、多大の累積欠損をかかえていたため、金融機関から自己資本の充実を図るよう要請され、原告がその組合員に対して支払うべき塩田賃借料を出資積立金として組合に保留することとしたが、組合員からそのような措置では組合員に現実の収入がないのに所得税の課税を受けることになるとの不満が述べられ、その善処方を要求されたため、当時多額の累積赤字があり、実質的には返戻される見込みのないものであったところから、これを出資積立金とせず、組合員に対する損失分担金として処理することとし、組合員全員の了解をえたうえ、昭和三二年度の決算において、同年度中にその組合員に対し支払うべき塩田賃借料六、五六七、三八二円につき、会計帳簿上組合員勘定に計上されている組合員に対する債権と相殺するとともに、その同額を組合員に対する損失分担債権として未収入金に計上したうえ、これを営業外収益として益金処理したこと、しかるに、原告は、その工場および全塩田を廃止して解散することとなるに及んで、未だ繰越欠損の解消されていない昭和三四年一〇月の仮決算において、右損失分担金債権を営業外費用として損金処理し、欠損金額をそれだけ増大させたこと、以上の事実が認められ(る。)≪証拠判断省略≫
してみれば、原告が未収入金に計上された右損失分担金につき、未だ累計欠損の解消されていない昭和三四年一〇月の仮決算において、他に特別の事情も認められないにもかかわらず、これを営業外費用として損金処理し、欠損をそれだけ増大させた会計処理は、放漫経営によるものといわざるをえないから、被告がこれにつき、欠損補填交付金の算定上否認した点に誤りがあるということはできないといわなければならない。
(三) 施設除却費等の損金について
原告が昭和三四年三月末日資産として計上し、同年一〇月二一日および昭和三五年三月三一日に除却した別表六の(一)および(二)記載の各施設(除却施設)の除却損九、〇四七、五八三円、原告が昭和三四年三月末日資産として計上し、同年一〇月一二日に経費処分した別表六の(三)記載の採かん器具(除却器具)七一七、二四七円および前記買収施設(別表二の(一)記載の各製塩施設)に対する昭和三四年四月一日から工場廃止日の同年一〇月一二日までの減価償却額二、七八八、四四二円ならびに右工場廃止日以降全塩田廃止日の昭和三五年四月九日までの減価償却額一、一五八、一二一円のうち九三六、二四二円を、被告が本件処分においていずれも否認したことは当事者間に争いがなく、≪証拠省略≫によれば、被告が原告の右会計処理を否認したのは次の理由によるものであることが認められる。すなわち、被告は、右除却施設および器具の買収時期をそれが原告の資産として計上された昭和三四年三月末日と認めたが、当時それらはいずれも既に現存しないかまたは現存しても全く使用価値のないものであったので、原告がかような物件を基準日後に買収し、直ちにこれを除却ないしは経費処分して除却損ないしは経費としたことは、放漫経営によるものであって、これによって生じた欠損は、欠損補填交付金の算定上やむをえない理由により生じたものとは認めがたいものと判断し、これを否誤したものであること、また、買収施設に対する減価償却費については、被告において買収施設のうち宇野港土地株式会社から買収した物件を除くその余の施設の取得価額を処分見込価額をこえて認めることはできないと判断した結果、これに対する減価償却費は欠損補填交付金の算定上認める余地のないものとし、原告が買収施設の減価償却費として昭和三四年一〇月一二日に計上した二、七八八、四四二円と昭和三五年三月三一日および同年四月九日に計上した合計一、一五八、一二一円のうち宇野港土地株式会社からの買収施設に対する減価償却額として被告の認容した二二一、八七九円を差引いた九三六、二四二円とを否認したものであること、以上の事実が認められ、右認定に反する証拠はない。
そこで、以下、被告のした右各否認の当否について検討する。
1 除却施設の除却損否認の点について
前記除却施設が本件買収施設とともに買収されたものであることは当事者間に争いがないところ、右買収施設の買収時期が昭和三四年三月末日であったことは前示(第二の一、(二))認定のとおりであるから、右除却施設の買収時期も昭和三四年三月末日であったといわざるをえない。
しかるところ、昭和三四年三月末日当時には右除却施設の大半がすでに自然消滅し、現存しないものであったことは原告の自認するところであり、また、≪証拠省略≫によれば、右除却施設は本件買収施設等とともに資産として計上する段階(昭和三四年三月末日)においてすでに消滅し現存しないものを主体に摘出されたものであることが認められ、これらの事実よりすれば、右除却施設は右買収当時すでに現存しなかったものといわざるをえないから、かかる物件につき原告が所有権を取得する由はなく、したがって、原告がこれにつき買収が成立したものとして資産に計上したうえ、直ちに除却し、その除却損を計上したのを、被告が本件処分において否認したのは正当といわざるをえない。
2 除却器具の経費処分否認の点について
前記除却器具が本件買収施設とともに買収されたものであることは、右除却施設におけると同様、当事者間に争いのないところであるから、右除却器具の買収時期も昭和三四年三月末日であったといわざるをえない。
しかるところ、≪証拠省略≫によれば、右除却器具のうち新浜塩田分を除くその余の器具は、昭和三四年三月末日当時すでに現存しなかったものであることが認められるから、かかる物件につき買収の成立する由はなく、したがって、原告がこれを資産に計上したうえ、直ちに経費処分し、これを損金に計上したのを被告が本件処分において否認したのは正当といわざるをえない。また、新浜塩田分の除却器具についても、≪証拠省略≫によれば、右器具の単価はいずれも一〇、〇〇〇円以下のものであり、通常消耗品として扱われるものであったこと、右器具はいずれも昭和三〇年七月以前からその組合員が使用していたものであったこと、原告は昭和三四年三月末日には新浜塩田を廃止する方針を決定していたことが認められるので、これらの事実と右器具の取得時期(昭和三四年三月末日)および新浜塩田の廃止日(同年一〇月二六日)とからすれば、そのような物件を原告がその主張するような価格をもって取得するだけの合理的理由があるとは到底認めがたいところであるから、被告が本件処分において欠損補填交付金の算定にあたり、そのような価額をもって買収したうえ、これを経費処分したことによる欠損をやむをえない理由により生じたものとはいえないとして否認したのは正当というべきである。
してみると、被告のした除却器具の経費処分を否認した点に違法はないこととなる。
3 買収施設の減価償却費否認の点について
本件買収施設のうち宇野港土地株式会社から買収した施設(別表二の(四)参照)に対する減価償却費が二二一、八七九円であることについては、原告の明らかに争わないところであり、右減価償却費については本件処分において欠損補填交付金の対象としていることは前示認定のとおりである。
そこで、本件買収施設のうち右の別表二の(四)記載の物件を除くその余の施設の減価償却費否認の点の当否についてみるに、被告が右施設の取得価額を処分見込価額をこえて認めえないとしたことは、前示(第二の一、(二))のとおり正当とはいえないから、これを前提として右施設に対する減価償却費を否認した点も同様に正当なものということはできない。
そうとすれば、被告が本件処分において、本件買収施設のうち宇野港土地株式会社から買収した別表二の(四)記載の製塩施設以外のものに対する減価償却費を欠損補填交付金の算定にあたり否認した点は違法であるといわなければならない。
(四) 利息の支払による損金について
原告が工場および新浜、久々井浜両塩田の施設のためならびにそれらの運転資金のためとの名目による借入金に対する利息として、右工場および両塩田の廃止後、前潟浜等塩田の廃止までに支払った三、〇二九、四二六円を、被告が本件処分において否認したことは当事者間に争いがなく、≪証拠省略≫によると、原告は、前記のとおり、工場、新浜塩田、久々井浜塩田、前潟浜等塩田における製造を順次廃止しているので、被告は、右各製造場における製造の廃止にかかる欠損補填交付金の算定上、原告提出の財産目録、貸借対照表、損益計算書等の財務諸表記載の借入金に対する支払利息につき、当該借入金の借入名目によって分類し、これらに対する各利息分を計算したうえ、原告が工場施設のための借入金(農林資金)に対する利息として支払ったもののうち、右工場廃止後相当分二、六五〇、四九六円、新浜、久々井浜両塩田施設のための借入金(農林資金)に対する利息として支払ったもののうち、右両塩田の各廃止後相当分九五、三九六円および運転資金のための借入金(一般資金)で先に廃止した工場、右両塩田の運転資金に充てられた分に対する利息として支払ったもののうち、右工場、両塩田の各廃止後相当分二八三、五三四円の合計三、〇二九、四二六円は、右工場、両塩田における製造の各廃止後のものであるから、右工場、両塩田における製造の廃止に対する欠損補填交付金の対象たりえず、また、これらは前潟浜等塩田について生じたものとも認めえないため、これらを否認したことが認められる。
ところで、すでに清算費用交付金に関する項において述べたとおり、法は、各製造場における製造の廃止ごとにそれぞれ法、令の定める交付金を交付する建前をとっており、欠損補填交付金も各製造場における製造の廃止にかかる塩またはかん水の製造事業についての欠損(繰越欠損を含む。)につき、廃止日における欠損額により交付される(令三条三号、公示一三条参照)のであるから、原告がその工場および各塩田を前後四回に分けて廃止したことが当事者間に争いのない本件においては、右工場および各塩田における製造の廃止ごとにその欠損補填交付金を算定すべきこととなるが、≪証拠省略≫によれば、原告は、その各製造場ごとの財産目録、貸借対照表、損益計算書等の財務諸表を作成している訳ではなく、各製造場を総合した単一の財務諸表を備えていたものであることが認められるから、被告が原告の右各製造場における製造の廃止にかかる欠損補填交付金の算定にあたり、その借入金に対する支払利息につき、当該借入金の借入名目により各製造場に関する借入金と認め、これに対する支払利息を当該製造場における製造の廃止にかかる欠損補填交付金の算定の基礎としたことは相当であるといわなければならない。
しかるところ、原告の借入金をその借入金名目によって分類し、これに対する各利息を計算すると、原告の工場および各塩田における各廃止後に支払われた分が被告認定の額となることは、原告も認めるところであるから、被告がこれらを欠損補填交付金の対象たる欠損と認めず、否認した点に違法はないといわなければならない。
右につき、原告は、企業においては借入金の返済に充てられる資金源が当初の借入目的に従って投資された施設から生じた利益に限られるものではないから、借入金の元利を被告のように特定の施設に関連づけて分類するのは不合理である旨主張するが、法、令の建前が前述のようなものである以上、欠損補填交付金の算定にあたり、廃止業者が単一の財務諸表しか備えていない場合には、各製造場ごとにその欠損(繰越欠損を含む。)をなんらかの方法によって分類しなければならないのであり、その方法として被告の採用した方法以外に合理的な方法の認められない本件においては、被告の採用した方法を不合理なものということはできないから、原告の右主張は採用できない。
また、原告は、借入金に対し発生した利息はいずれにせよ当然に原告において支払わなければならない性質のものであるから、原告が前潟浜等塩田の廃止までの間に発生した利息を支払ったことによる損金は、公示一三条にいう「止むを得ない」損金とみるべきである旨主張するが、被告が否認した支払利息は、前示のとおり、先に廃止した工場、新浜、久々井浜両塩田に関するものであって、前潟浜等塩田に関するものではないから、前潟浜等塩田の廃止にかかる欠損補填交付金として認める余地はなく(令三条三号参照)、また、右否認にかかる支払利息は、右工場および新浜、久々井浜両塩田の各廃止後に発生した利息にかかるものであるから、右工場および新浜、久々井浜両塩田の各廃止にかかる欠損補填交付金としても認めえない(公示一三条参照)のであって、原告の右主張は採用できない。
さらに、原告は、先に廃止した工場、塩田に配置された事務所、かん水関係の設備をその廃止後も原告において使用して前潟浜等塩田の経営を続けていたのであるから、これに対し正当な賃借料を支払うべきであり、その額はほぼ右支払利息額に相当するので、これに代わるべきものとしてなされた支払利息による損金は公示一三条にいう「止むを得ない」損金というべきである旨主張するが、右主張は畢竟独自の見解に基づくもので採用のかぎりでない。
(五) 退職金の支払による損金について
原告がその従業員に対し退職金として、その退職金支払交付金をこえて支払った四、七九九、九八四円を、被告が本件処分において否認したことは当事者間に争いがない。
ところで、法、令は、廃止業者が廃止に伴なってその従業員に対し支払う退職金に充てるための交付金については、欠損補填交付金とは別個に規定を設けているのであるから、退職金支払交付金に関する法、令の規定により交付される額以上の退職金をその従業員に支払ったからといって、これに対し欠損補填交付金を認めるとすれば、実質的には退職金支払交付金を法、令の定める限度以上に認めるのと同じ結果となり、法、令が特に退職金支払交付金につき規定を設けた趣旨に反することになるから、被告が本件処分において、原告がその従業員に対し支払った退職金のうち、法三条、令五条による退職金支払交付金をこえる部分たる四、七九九、九八四円を欠損補填交付金の対象たりえないものとして否認したのは正当というべきである。
原告は、当時、従業員が退職金支払交付金として被告の交付した交付金だけでは満足せず、横の連絡をとり、全国的運動をおこして退職金の追加支払を要求したため、やむなく追加支給したものであるから、その支出に基づく損金は公示一三条にいう「止むを得ない」損金というべきである旨主張するが、たとえ右主張のような事情があったとしても、これに対し欠損補填交付金を交付しえないことは前示法、令の趣旨より明らかであるから、原告の右主張は採用することができない。
第三結論
以上の次第であるから、本件処分のうち、減価補填交付金の算定につき、汽缶1の基準日簿価を調整した部分、買収施設のうち別表二の(四)記載の製塩施設を除くその余のものに対する減価補填交付金を零とした部分、入川浚渫に対する寄附金につき交付金を交付しないとした部分および欠損補填交付金の算定につき、買収施設のうち別表二の(四)記載の製塩施設を除くその余のものに対する減価償却費のすべてを否認した部分は、いずれも違法であるから、これを取消し、その余の部分は正当であるので、これに対する原告の請求は失当として棄却することとし、訴訟費用の負担につき民訴法八九条、九二条を適用して、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 高津環 裁判官 牧山市治 海保寛)
<以下省略>